社説(4月23日)新スタジアム構想 清水港に「未来都市」を

 JR清水駅近くの清水港内に石油タンクが並ぶ油槽所を所有する石油元売り最大手のENEOS(エネオス)は、同社遊休地を活用したまちづくりの議論に協力すると明らかにした。大田勝幸社長が田辺信宏静岡市長を訪ね、意向を伝えた。同市清水区では湾岸一帯の再開発と、核施設としての新サッカースタジアム建設に待望論がある。
 遊休地は約20万平方メートルで、同社はうち半分程度の利活用について検討する用意があるとした。静岡市は近く、官民の検討委員会を設置して具体的な対応策を練る。
 前回市長選で田辺市長は清水区での新スタジアム整備を公約に掲げた。川勝平太知事は津波防災対策の観点から関与が必要との認識を示し、費用負担を含め協力を検討する構え。新スタジアム構想が動きだす可能性が出てきた。
 清水区は人口減少が続き、地域経済の回復策が待たれる。清水港は景観や高速道とのアクセスの優位性が再評価されている。臨海地域の高度利用のまたとない好機だ。

 スタジアムの建設構想は緒に就いたばかりだが、既に清水港を舞台にした構想やプロジェクトは乱立気味だ。
 エネオスはスタジアム事業に協力姿勢を示す前に、当該遊休地を念頭に静岡県、静岡市とそれぞれ、水素を軸とした次世代型エネルギーの供給拠点整備の基本合意書を取り交わした。エネルギー関連企業として低炭素・循環型社会への貢献を打ちだしており、スタジアムはこの企業理念に配慮する必要があろう。国土交通省は昨年末、清水港を脱炭素のカーボンニュートラルポート(CNP)とする官民の協議会を発足させた。中部地方整備局は「水素やアンモニアの供給拠点としても港湾地区が有利」と説明し、港湾作業での温室効果ガス排出ゼロを目指す意向だ。
 一方、静岡県内の自民党国会議員は議員連盟を設立し、駿河湾の特性を生かした世界的海洋研究拠点の構築を打ち出した。会長に就いた上川陽子衆院議員(静岡1区)は地球深部探査船「ちきゅう」の寄港や県の「マリンオープンイノベーション(MaOI)プロジェクト」、海洋関連の研究教育機関の集積を挙げ、日本初の「海洋版デジタル田園都市」を目指すと表明した。
 こうしたプロジェクトや構想で、理念や狙いに重複が目立つ背景に、国際貿易港の管理運営と周辺整備で国と県、政令市の権限が絡み合う縦割り行政がある。岸田文雄首相は施政方針演説で、脱炭素の技術革新を有力な成長分野と位置付け「経済社会を大変革」する必要性を訴えた。臨海地域の再開発が行政の枠組みを超え、地域や経済界を巻き込んだ一大事業となれば、首相方針と軌を一にする。調整役を担う強い政治的リーダーシップが不可欠だ。

 スタジアム構想は水面下で検討が進み、静岡県の担当者は、次世代エネルギー都市構想の象徴的施設と位置付けるよう静岡市側に働きかけてきた。一方、静岡市はエネオス用地から離れた日の出地区に水族館と博物館機能を併せ持つ海洋文化施設を整備する意向で、投資の余力は限られるとの指摘がある。
 静岡市は清水区役所の移転先が課題で、静岡県は清水―土肥港を結ぶ駿河湾フェリーの新たな発着場を遊休地に隣接する江尻地区の埠頭[ふとう]に設ける方針だ。ならば、新スタジアムに区役所やフェリーの玄関口、海洋文化の教育研究機能を併設させたらどうだろう。独立したエネルギー基地であれば高度な防災拠点化も想定できる。自民党が掲げる「海洋版デジタル田園都市」を具現化し、裾野市でのトヨタ自動車の未来都市に並ぶまちづくりを構想したい。
 スタジアムを単なる球技場とするなら地域再生は危ういと指摘したい。国の政策予算を引き出し、世界の研究者と民間投資を呼び込んでこそ税金の有効活用になる。

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