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JR東海の「抗議」は失当だ リニア工事の突発湧水報道【記者の目】

 地域の懸念払拭を求めた国土交通省専門家会議の「指導」は空振りに終わったのか。
 リニア中央新幹線の南アルプストンネル工事を巡る金子慎JR東海社長の定例記者会見での発言。新たに「超高圧大量湧水の可能性」と記された資料が存在すると報じた本紙記事を「こういう取り上げ方は不適切なのではないかと抗議している。さも危険なように、印象を与えるような記事はいかがなものか」と強く批判した。
 本社は2020年に、大井川直下で「高圧大量湧水の発生が懸念される」と記された資料の存在を報じた。さらに、より踏み込んだ「断層周辺の破砕帯では超高圧大量湧水の発生する可能性が高く、切羽崩壊、著しい内空変位の発生も予想される」とした資料があったと続報した(4月7日付朝刊)。
 続報では、専門家会議で同様のリスクの記述がある山梨県寄りの箇所は提示・説明したのに、本県区間の中央部は資料の提示も説明もなかったと指摘した。
 これら記事への見解を尋ねた記者に金子社長は、安全に施工する観点でコンサル会社に留意点を列挙してもらい、対処したと説明した。専門家会議での対応の経緯については「どういうことを説明するかというのはその都度、事務局と打ち合わせた上で、選んで説明してきた。それ以上のことは申し上げられない」と明らかにした。国交省が説明不要と判断したということなのか。
 懸念を指摘する報道や、県などの照会に対する対応で、JR東海は「法に基づく手続きを経ている」との姿勢で一貫している。
 ルート決定過程で水資源への説明不足を問題視した川勝平太知事の発言への見解を問われた金子社長は「アセスの中で必要な手続きを踏んでいる。知事から意見を伺うということもあった。その上で、どういうことを指摘されているのか、ちょっと分かりにくいところがある」と述べた。国交省専門家会議の初会合で金子社長は「法に基づくアセスを完了し、工事の認可をもらった」「県から実現しがたい課題が課せられている」と訴え、後に撤回した。
 昨年12月、国交省専門家会議が解析結果として中間報告で示した表流水や地下水への影響の見通しは、おおむね2点に集約できる。
 まず、トンネルの工事期間(先進坑貫通までの約10カ月)に上流部の水が県外に流出しても、山体内の地下水を導水管で大井川に流すから流量は増加する。次に、中下流域の地下水は主に近くの降雨や大井川の表流水から供給されており、中下流域へと水が流れていれば地下水枯渇への影響は小さいとした。
 中間報告はこれらの取りまとめに当たり、JR東海に対する「指導」を付した。
 「推計されたトンネル湧水量は確定的なものではなく、また、突発湧水等の不測の事態が生じる可能性がある。これまでの県専門部会での議論においては、リスク分析の重要性についてJR東海の認識が不十分であり、リスクへの対応に関する説明も適切に行われていなかった」「水資源利用に関しての地域の不安や懸念が払拭されるよう、真摯[しんし]な対応を継続すべきである」
 分野は異なるが、巨大地震や浸水対策では想定し得る最大のリスクの情報を公開し、住民と共に危機管理に当たる。専門的資料は丁寧に説明して理解を求める。自然相手の対策は不確実性や想定外と隣り合わせだからだ。
 JR東海が約束した湧水の「全量戻し」の方法はいまだ示されていない。一連の経過を踏まえれば、金子社長の「抗議」は失当で受け入れられない。もとより、綿密な取材で課題を掘り起こして提示する報道機関の責務を放棄することはない。

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