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特集 : 御前崎市

「核のごみ」揺れる寿都町(北海道) 静岡新聞社記者ルポ

対岸から望む北海道寿都町の中心部。町では核のごみの最終処分場選定に向けた調査が進められている=3月下旬/(左上)越前谷由樹さん/(右上)片岡春雄町長
対岸から望む北海道寿都町の中心部。町では核のごみの最終処分場選定に向けた調査が進められている=3月下旬/(左上)越前谷由樹さん/(右上)片岡春雄町長

 中部電力浜岡原発(御前崎市佐倉)など原発の運転により発生する高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定に向け、北海道の二つの自治体で全国初の文献調査が行われている。3段階の調査の第1段階に当たり、今秋にも終了すると地元が第2段階の概要調査へ進むかどうかを判断する。調査受け入れに伴う多額の交付金をてこにした地域振興への期待の一方、安全性や風評被害の懸念から反対も根強い。選択が近づく中、首長や住民はどのような思いを抱いているのか。静岡新聞社などが加盟する地方新聞エネルギー研究会の取材で現地を訪ねた。

最終処分場選定へ 北海道2自治体で全国初文献調査

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 3月下旬でも雪景色の広がる日本海沿いを進むと、巨大な風車群が目に飛び込んできた。北海道の南西部、函館市と小樽市を結ぶ海岸線のほぼ中央に位置する人口約2800人の寿都(すっつ)町。古くから水産業で発展し、現在は風力発電も財政を支える。この小さな町に2020年8月、文献調査の話が突如持ち上がった。

 ■一石
 「原発が稼働してから半世紀、一番大事な最終処分を国が一向に段取りしなかった。それに対して一石を投じたつもりだ」
 調査の応募を主導した片岡春雄町長(73)は、町役場で淡々と振り返った。きっかけは18年の胆振東部地震後に北海道全域で起きた“ブラックアウト”。町内も27時間の停電に見舞われた経験から改めてエネルギーを考え、最終処分の問題も「議論する必要があるのでは」との思いを抱くようになった。
 地域衰退への危機感もあった。就任から20年間で町の人口は1200人減った。新たな産業もなかなか生み出せず、風力発電の収入だけでは先行きの見通しは厳しい。最終処分の「勉強」をきっかけにまちの将来に向き合い「皆が合意して前に進めるなら、資金(交付金)を活用して新たな産業づくりを探ろうじゃないか」と期待した。単に調査受け入れに伴う20億円の交付金目当てだったわけではないと語気を強める。

 ■分断
 ところが、住民の反発は大きかった。顕在化したのが21年10月の町長選。20年ぶりの選挙戦は文献調査の賛否が最大の争点となった。片岡町長は一騎打ちを制して6選を果たしたものの、約200票差まで迫られる接戦だった。
 文献調査撤回を掲げて対抗馬となった越前谷由樹さん(70)は、調査の受け入れで町内に“分断”が生じたと訴える。隣近所でなんでも話をできる風土が損なわれ「町がもやもやに包まれている」。越前谷さんの後援会長で水産加工業を営む吉野寿彦さん(62)は「核のごみの町というイメージが付けば、産業はダメージを受ける」と風評被害を懸念する。
 町議の幸坂順子さん(72)は「調査受け入れの前に勉強しないといけないのに、町長は『受け入れながら勉強しましょう』ありき。感覚が全く違い、分かり合えない」ともどかしさをにじませた。

 ■焦点
 事業を担う原子力発電環境整備機構(NUMO)は調査の状況について「文献の収集はだいたい終わり、これから評価に向かっていく」と説明。最終的な報告書の公表後に寿都町で焦点となるのは、概要調査に進むかどうかを決めるために実施される住民投票だ。
 片岡町長は「23年度中にはできるように」との考えを示し「これからも町民に学ぶ機会を提供し、自分で判断してもらう。決して『賛成を』と説得するようなことはしない」と強調する。一方、反対派は「町長にとって有利な時にやるのでは」と警戒感を隠さない。
 最終処分の問題に詳しい東京電機大の寿楽浩太教授(科学技術社会学)は、住民投票の前段として「十分に議論が尽くされたと多くの人が納得できるようなプロセスを経ることが大事だ」と説く。
 ただ、この1年半は新型コロナ禍もあり、町とNUMOが開催する「対話の場」なども十分な回数を重ねられなかった。町全体での建設的な議論の空気はまだ広がっていない。
 

泊原発の地元・神恵内村 商工会が応募を請願

  photo02 北海道神恵内村の中心部=3月下旬  
 寿都町とともに文献調査が行われているもう一つの自治体が、人口800人弱の神恵内(かもえない)村。調査は2020年11月17日に両町村で同時に始まったが、受け入れに至った経緯は異なる。寿都町が片岡春雄町長の判断で応募したのに対し、神恵内村は応募検討を求める商工会からの請願を村議会が採択。これを受けて国が調査を申し入れ、高橋昌幸村長が応じた。
 北海道電力泊原発の地元として長く原発関連の交付金の恩恵を受けてきた歴史から、寿都町に比べて反対の声は少ないとの見方もある。2月の村長選では高橋村長が90%以上の票を得て、脱原発派の新人に圧勝した。
 

再処理工程で発生 強い放射能 地下深く埋めて隔離

  photo02 NUMO寿都交流センターに掲示されている地層処分事業を説明するポスター=3月下旬、北海道寿都町  
 高レベル放射性廃棄物は、原発の使用済み核燃料を再処理する工程で発生する。再利用できるウランやプルトニウムの回収後に残った廃液を、ガラスと溶かし合わせ、筒状のステンレス製容器に流し込んで固める。「ガラス固化体」とも呼ばれ、高さ約1・3メートル、直径40センチ、重さ500キロ。強く危険な放射能を放ち、十分に安全なレベルに減衰したとみなせるまでの期間は数万~10万年とされる。
 国は、地下300メートルより深い地層に処分すると決めている。人工物と岩盤を組み合わせた多重のバリアーシステムで閉じ込め、人間の生活や地上の自然環境から隔離する。処分地選定から施設建設、操業、閉鎖までをNUMOが手掛ける。
 2021年3月末時点で国内にあるガラス固化体は約2500本。大半が青森県六ケ所村の施設に一時貯蔵管理されている。各地の原発で保管される使用済み核燃料を今後再処理すると、既存分と合わせて2万6千本相当になる。
 NUMOが計画する処分場は、ガラス固化体を4万本以上埋設できる施設。処分費用は約4兆円に上る。
 

国、打開狙ってマップ公表 県内自治体は動きなし

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 高レベル放射性廃棄物の最終処分を巡っては、NUMOが2002年から選定調査の受け入れ自治体の公募を始めた。07年に全国で最初に手を挙げた高知県東洋町が町民の激しい反対で取り下げて以降、今回の寿都町と神恵内村が現れるまで停滞が続いてきた。最終処分のめどがつかないまま原発が稼働する矛盾を抱えた国の原子力政策は、「トイレなきマンション」との批判が常に付きまとう。
 国は状況を打開するため、17年に火山や活断層からの距離、鉱物資源の有無といった基準で最終処分できる可能性のある地域を示す「科学的特性マップ」を公表した。本県は東部・伊豆地域が火山の影響により「好ましくない」とされた一方、中西部の海岸付近を中心としたエリアが「輸送面でも好ましい」に色分けされている。
 NUMOは適地を絞り込むため「1カ所でも多く」の調査を期待するが、寿都町、神恵内村に続く受け入れ自治体は出ていない。県内も模索をするような動きは見られない。
 

3段階 計20年のプロセス 道知事の判断にも注目

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 最終処分場は①文献調査②概要調査③精密調査―の3段階、計20年程度の流れで建設地を決める。国は文献調査で最大20億円、概要調査で70億円の交付金を受け入れた自治体に支給する。
 文献調査では地質図や学術論文など対象地域の文献・データを使い、明らかに立地に適当でない場所を除外する。NUMOによると、東京都内での机上の作業が中心となる。寿都町と神恵内村には職員が常駐する交流センターをそれぞれ開設し、住民理解の促進を図っている。概要調査に移るかどうかは、両町村長と道知事の意見を聴き「反対の場合は進まない」と明言する。
 道は核のごみの持ち込みを「受け入れがたい」と宣言した「核抜き条例」を制定している。鈴木直道・道知事はこれを踏まえ、概要調査へ進むことに反対の姿勢を示す。2023年春に控える知事選の争点となる可能性もある。
 

記者の目 “発生地”からも関心を

 
 長く膠着(こうちゃく)してきた高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定が、寿都町と神恵内村の調査受け入れで動き始めた。だが、現地で目の当たりにしたのは賛成、反対に分かれた住民の間に深い溝が生まれ、小さな自治体に過度の負担がかかっている様子だった。従来の原発のような交付金で立地を促すやり方の限界も感じた。
 核燃料サイクルは国策で、本来は国民的な議論が必要なはず。その過程が十分でなかったからこそ、最終処分場も単に「迷惑施設」と捉えられてきたのだと思う。仮に両町村での調査が次に進まず頓挫すれば、選定作業は振り出しに戻る。広範の合意形成を欠いたままでは、次に受け入れ自治体が現れるまでにはまた長い年月がかかるのではないか。
 浜岡原発を抱える本県は、いわば核のごみの“発生地”。最終処分の問題は決して無関係ではない。寿都町の片岡春雄町長は議論を「全国に発信したい」と語った。原発立地の責任としてそうした思いも受け止め、事業のあり方を考えたい。

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