高圧湧水5カ所記載 「先端崩壊」危険性も ルート選定時の地質調査資料【大井川とリニア】

 本紙が入手したリニア中央新幹線ルート選定時の2013年3月に作成された地質調査資料によると、大井川上流域に当たる県内区間では、高圧湧水に関する5カ所の記載が確認された。そのうち、「超高圧大量湧水」を含めた3カ所の記載は公表されていなかった。

これまで公表されていなかった地質調査資料の主な記載事項
これまで公表されていなかった地質調査資料の主な記載事項

 資料は山梨、静岡、長野の3県にまたがるトンネル計画区間について、断層などがある位置ごとに「施工上の留意点」という掘削業者向けの注意点が記されていた。本県区間は「超高圧大量湧水」以外に、「切羽(トンネル先端)崩壊や膨圧の発生する危険性が高い」「切羽崩壊や著しい内空変位(トンネル内の変形)の発達が懸念される。高圧大量湧水も要注意」などの記載があった。
 JR東海の試算で地下水位の大幅な低下が予測され、少雨時に水枯れの可能性がある支流の西俣川付近は「高圧大量湧水の発生も懸念される」とされた。
 こうした情報は水資源や生態系への影響や対策を検討する際に重要で、「高圧湧水」は山梨県内でルートを迂回(うかい)させる理由になった。しかし、13回にわたる国土交通省専門家会議で提示されたのは、報道で問題視された大井川直下や、大規模な断層があるとされる山梨県境付近だけだった。
 3月に再開した県の有識者会議では委員から、高圧湧水の可能性がある地点を具体的に示すように求める意見が出されている。
 南アルプスの地質に詳しく、環境省から意見を求められた経験がある狩野謙一静岡大防災総合センター客員教授(構造地質学)は、今回の資料を確認した上で「一般の人の不安を払拭(ふっしょく)するためにも、公表して多くの専門家に意見を聴くべきだ。記載の根拠となる詳細なデータも必要になる」と指摘した。

 ■水環境考慮に疑念 説明尽くせ【記者の目】
 リニア中央新幹線のルートが南アルプス(大井川上流域)をトンネルで貫通するルートに決まった過程を調べてみると、水資源や生態系への具体的影響をルート決定後に示したり、地質調査資料が非公表になっていたりして、JR東海が水環境への影響を十分考慮していたのか疑念が募る。
 利水者はルート決定後に具体的な影響を知らされた。「なぜ、大井川上流域をルートに選んだのか」と疑問の声が上がるのは当然だ。JRは山梨県内で「高圧湧水の恐れ」を理由にルートを回避する一方、大井川上流域の「超高圧大量湧水の発生する可能性が高い」という情報は開示しなかった。果たして、水環境への影響を最小限に抑えるルートを選定したのか。
 同社の金子慎社長は選定過程を開示する必要性を疑問視しているが、南アルプスルートの優位性を主張していた当事者で、事情をよく知っているはずだ。流域住民への説明を尽くしてほしい。(大橋弘典)

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