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港に異様な濁り 土砂流出、高まる危機感【残土の闇 警告・伊豆山⑪/第2章 赤井谷の“攻防”③】

 大型の台風18号による大雨が峠を越した2009年10月8日の朝。熱海市伊豆山の伊豆山港の周りに、どんよりとした濃い濁りが漂っていた。「泥がばーって広がってた。『何だこれ、すげえな』って」。地元で漁業を営む男性(46)は、仲間の漁師と目の当たりにした13年前の光景を今でも鮮明に記憶している。

熱海市が公開した2007年4月下旬の逢初川と伊豆山港の写真。「相当の濁りを確認」と説明している
熱海市が公開した2007年4月下旬の逢初川と伊豆山港の写真。「相当の濁りを確認」と説明している

 「すぐに見に来てほしい」。漁師たちは港を管轄する県熱海土木事務所に一報を入れた。濁りの原因を確かめようと駆け付けた職員らと逢初(あいぞめ)川をさかのぼり、行き着いたのは源頭部にある神奈川県小田原市の不動産管理会社が盛り土を造成した現場だった。
 同社の盛り土計画が熱海市に受理されて間もない07年4月下旬にも、伊豆山港周辺の海が茶色に染まる「相当の濁り」(市)が発生するなど、逢初川河口の濁りはたびたび目撃された。当時も市は、盛り土を進める現場責任者に土砂の流出防止などを求めたが、繰り返された異様な光景に漁師たちの不安は募っていった。
 同社が現場に搬入していたとされる残土の劣悪さは地元の建設業関係者の間でも専らのうわさだった。熱海市の土木業の男性(66)は「残土というかヘドロみたい。下手すると産業廃棄物の汚泥に区分されるような、とにかく悪い土だった」と証言する。「転圧不足の土砂が流れ出している」「現地の土砂は長靴がはまると抜けなくなるような軟弱な状態」。熱海土木が09年10月8日の濁りを受けて翌9日に行った盛り土造成現場の調査記録にも具体的な描写が残っている。
 同年11月4日午前、県熱海総合庁舎2階の第2会議室。熱海土木と県東部農林事務所、市の担当職員が今後の対策を協議するため顔を合わせていた。「大雨が降ると斜面に亀裂が生じ崩壊してもおかしくない」「災害がもし発生すると行政が責任を問われる」「明日にでも停止するような気持ちで対応すべき」―。職員は危機感をあらわに意見を交わした。12月1日午後、3者は再び対策会議を市役所で開く。「最悪のことを考えて、行政代執行の用意をしたほうがいいのではないか」。行政が自ら手を下す“最後の手段”が選択肢に浮上した。
 ただ、実際は行政指導を通じて土砂の搬入を中止させ、状況を見て法的措置に移行するというのが対処方針だった。市は県の条例に基づく「土の採取等変更届出書」の提出を命じたが、同社が応じたのは期限の9日後。しかも搬入可能な土の量を過大に見積もるなど、その内容は実態とかけ離れていた。文書指導の効果は薄く、最後の手段に踏み出せずにいる県と市を横目に、業者はその後も残土の搬入を続けていった。
 >見誤った大崩落のリスク 措置命令、直前で見送り【残土の闇 警告・伊豆山⑫/第2章 赤井谷の“攻防”④】

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