リゾート開発巡り行政揺さぶり 水道施設、交渉の「道具」に【残土の闇 警告・伊豆山⑩/第2章 赤井谷の“攻防”②】
神奈川県小田原市の不動産管理会社が2006年9月に取得した熱海市伊豆山の約35万坪(約1・2平方キロ)には、伊豆山地区の住民生活を支える水道施設が点在している。高級リゾート構想をもくろんでいた同社は、土地の購入段階からこの重要施設を交渉道具にして、市に揺さぶりをかけていた。

同社の前の土地所有者と結んだ無償の土地貸借契約に基づき市が運用していた水道施設。契約では所有者が変わっても継続使用できるとされていたが、同社は難色を示した。特に伊豆山地区に送水する調圧槽は今後の開発の「邪魔」になるとして撤去を求めた。
一方、敷地内に埋設された水道管については、上に道路を造って市に移管することを提案した。「(市道になれば)水道管の権利問題は解決し、分譲地の安全性や見栄えも良くなると思った」。本紙の取材に、そう語った同社代表の男性。開発や分譲を急ぎ、借り入れた土地の購入資金を早く返済したい思惑があった。
しかし、そのシナリオはすぐに狂いだす。公文書によると、同社は県に開発予定地の環境影響調査を指示され、07年2月ごろから1年間、調査に時間を取られることになる。「金利を棒に振り、分譲も遅れた」。男性の不満の表れか、この頃から調圧槽の撤去を求める頻度が増えた。市の元幹部は「すぐに訴訟をちらつかせた。行政との交渉を有利に進めたい思惑が透けて見えた」と振り返る。
同社は07年3月、県土採取等規制条例に基づく盛り土計画を市に届け出て、翌月受理された。その3カ月後、台風で敷地内の斜面が崩れ、調圧槽の一部が埋まった。市は土砂の撤去を求めたが、同社はにべもなく拒否。当時の市議会で、市の担当者は「同和系列の会社で、ちょっと普通の民間会社と違う」と対応に苦慮している状況を説明した。一方、同社は神奈川県などで発生した残土の搬入を次々に計画し、調圧槽の撤去要求も続けた。
環境影響調査が1年を経過したある日。県は同社に対し、開発の許可申請に調査結果の添付は不要だったと連絡した。行政との交渉役だった同社の取締役はこれに激怒。多大な時間と金が無駄になったとして「損害賠償を直ちに起こすことを考えたが、今は温存しておく」「二度と水道施設に立ち入れさせない」と告げた。男性が幹部を務めていた同和関係団体の中央本部へ「恫(どう)喝を受けた」と通報されたことにも腹を立て、市と県の職員に大声でまくし立てたこともあった。
公文書ではその後も同社から水道施設の利用停止を迫られるのではないかと悩む市職員の姿がうかがえるが、男性は同和問題を悪用した圧力を否定している。
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