駿河湾沖の黒潮大蛇行「向こう半年以上継続」 美山透氏(JAMSTEC主任研究員)に聞く
駿河湾沖の黒潮大蛇行が続いている。観測を開始した1965年以降で最長だった4年8カ月(75年8月~80年3月)に並び、来月には史上最長の4年9カ月目に入ることが確実視されている。静岡県内の気候やサクラエビをはじめとする漁業、レジャーに影響を与えうる黒潮大蛇行。見通しなどについて海洋研究開発機構(JAMSTEC)の美山透アプリケーションラボ主任研究員(52)が30日までに取材に応じた。
-2017年8月から続く黒潮大蛇行の特徴は。
「蛇行の規模が非常に大きい。最大で2~3度海水温が高く、栄養塩が少ない海水が駿河湾などの東海地方沿岸に急角度で入り込んでいる。年明け以降には、海流のくびれが大き過ぎて一度蛇行から中心部の渦がちぎれる現象もあった。こうしたことは前回の最長期間にもあった。黒潮は太平洋の偏西風と貿易風、地球の自転が重なって流れる。日本列島周辺の複雑な海底地形が重なり、蛇行が生じる。こんなに頻繁に流れを変える海流はほかにない」
-黒潮大蛇行の影響とみられるものは。
「水は温度が高くなると膨張する。このため海面が上がり台風の際に高潮被害をもたらした可能性がある。また、低気圧には黒潮に沿って進みたがる性質があり、上空の気圧配置の変化から関東地方に大雪を降らす原因になった。最近の研究では、温かい空気が陸地に入り、湿潤で暑い夏になることも分かっている。20年8月には浜松市中区で埼玉県熊谷市と並ぶ国内史上最高気温の41・1度を観測したことにも関係している可能性がある」
-サクラエビの不漁との関係は。
「不漁にはさまざまな要因があり、これはほかの生物でも同様だ。東海沿岸ではアサリやカキの不漁、真珠貝なども成育不良になっている。一概には言えないが、高温で貧栄養な黒潮が流れ込んでいることが影響している可能性がある。ただ、黒潮大蛇行は自然現象であり、人間の力では対処ができないものだ。こうしたときだからこそ、河川環境に注目して改善したり、漁業者が漁獲自主規制を行ったりわれわれが対処できることを行うべきと考える」
-いつまで続くか。
「まだ終わりそうな気配はない。向こう半年以上は続くだろう。昔の不十分な観測体制の下では10年ほど続いた黒潮大蛇行もあるようだ。シュモクザメの回遊を見られるなどダイビングには好コンディションだが、漁には基本的には悪い環境が続くと言える。すぐ終わるのであれば自然界も回復できるが、長期間続くことで海藻が失われてしまうなど、黒潮大蛇行が終わっても回復が難しくなってしまうことは考えられる」
みやま・とおる 理学博士(京都大)。専門は海洋物理学で、JAMSTECのサイト「黒潮親潮ウォッチ」を担当する。小笠原諸島の海底火山の噴火では軽石の漂流予測でも注目された。富士市在住。