テーマ : お酒・ビール

193バレーブリューイング(島田市) 渡辺威夫さん 茶農家に縁、思い込め【しずおかクラフトビール新世㉒】

 島田市の伊久美地区と縁を紡いで丸10年。193[イチキューサン]バレーブリューイング(同市)の渡辺威夫醸造長(30)は、2月に完成した、地元産茶葉を使ったビール2種を前に来し方を振り返った。「今までのつながりに、やっと答えが出た気がする」

発酵タンクからビールを取り出す渡辺威夫さん=3月中旬、島田市の193バレーブリューイング
発酵タンクからビールを取り出す渡辺威夫さん=3月中旬、島田市の193バレーブリューイング
「スリープレスインシマダ」(右)と「ティー・トロン」
「スリープレスインシマダ」(右)と「ティー・トロン」
発酵タンクからビールを取り出す渡辺威夫さん=3月中旬、島田市の193バレーブリューイング
「スリープレスインシマダ」(右)と「ティー・トロン」

 伊久美に初めて来たのは、東京農大の学生だった2011年12月。環境保全や食に関わる課題解決を目指す学生のネットワーク「世界学生フォーラム」の活動の一環として、先輩に導かれた。
 東京生まれで、島田市や静岡県に特別な思いはなかった。中山間地の少子高齢化、過疎化の対策を実地研修を交えながら考える上で適切。伊久美はそうした意味合いで選ばれた地域だった。茶の栽培研修を受け、学生側からは販路拡大に向けた提案を行った。
 「当初はありきたりな中山間地と思っていた。でも、地元の人に魅了された。とにかく優しいし、かといっておせっかい過ぎない。ちょうど良い距離感で接してくれる」
 居心地が良い。気が付けば、足しげく通うようになっていた。農家にホームステイしたり、空き家に寝泊まりしたり。15回訪問した年もある。IT系企業に就職してからも折に触れて訪れ、茶畑の世話を手伝った。18年に独立してからは、伊久美に拠点を構えた。
 都内との2拠点生活を続ける中で、かつての農産物加工体験施設を改装した醸造所の醸造責任者に、という話が舞い込んだ。「自分の世界を広げるチャンス」と思い、引き受けた。
 掛川市の醸造所で作業手順を教わったが、21年11月に初めて仕込んだビールは「うまくいかなかった」。2回目の仕込みにして早くも背水の陣。「今回もだめだったらやめよう」。葛藤の中で浮かんだのが、10年前から世話になっている茶農家の顔だった。あの人たちのお茶を使おう-。
 喜んでもらいたい、という気持ちを込めてつくったら、充分な手応えのビールが出来上がった。パーソナルな物語をものづくりに生かせるのがクラフトビールの魅力だと気付いた。
 醸造長としての経験は半年に満たない。だが、周囲の期待を背負う覚悟はできている。「伊久美の人たち、島田の人たちのポジティブな気持ちを喚起し続けることが大切。このビールを、地元の人がよそに自慢できるような存在にしなくては」
 

 ■スリープレスインシマダ
 ■ティー・トロン

 伊久美地区の無農薬のかぶせ茶を瓶詰め直前に入れた2ブランド。どちらもアルコール分4%で飲みやすさを重視している。
 ペールエールの「スリープレスインシマダ」(右)は、ホップと茶の香りが溶け合い、口いっぱいに広がる。苦みは抑えめで、爽やかな優しい飲み口。モルトの甘みが後からやってくる。
 大麦と小麦を使ったアメリカンウィート「ティー・トロン」は、大麦だけを使った「スリープレス-」と比べ、さらに味と香りがまろやか。小麦とお茶のうま味が混ざり合い、複雑な後味を感じさせる。

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