半期の振り返り 記者座談会②「ネット時代、家庭の性教育」  

 ■テーマ「ネット時代、家庭の性教育」(21年11月19日~12月24日)
 性教育と聞いて反射的に身構えてしまう保護者は多いようです。必要性はなんとなく感じているけれど、教え方もタイミングも分からない-。インターネットには性の情報があふれ、子どもでも簡単にアダルトコンテンツにアクセスできる時代です。日本の性教育は海外に比べて遅れているとの指摘もある中、家庭で性教育をどう進めていけばいいでしょうか。【インタビュー】性教育アドバイザー のじまなみさん、静岡大教職センター准教授 松尾由希子さん

 佐藤 妻が性教育に関心があり、疎かった自分もいつか取材してみたかったのでテーマを提案した。日本は性教育が遅れていると言われる一方、アダルト産業は盛ん。ともすると「性」=「いやらしいもの」という印象が先行している。ところが、のじまなみさんを取材すると、印象は一変した。先入観のない幼少期から取り組むべきだとの思いを強くした。
 市川 のじまさんが紹介したパンツを洗う取り組みは、どの家庭でも実践できる好事例と感じた。性教育について子どもと話をする際はこうした「教材」が大きなきっかけになる。私が以前、記事で扱った「性教育トイレットペーパー」や保護者向け性教育参考書など、教材があるととても便利。学校に性教育の充実を求めるのは難しいが、生活の一部に性教育を落とし込む工夫ができれば、親が子どもと性に関する会話もしやすくなる。
 佐藤 学習指導要領には妊娠の過程を取り扱わないとする「歯止め規定」がある。のじまさんの「日本の学校教育はいまだに性をアンダーグラウンド的に扱っている」という指摘はもっともだった。そもそも自分自身、学校で性教育を受けた記憶がほぼない。女性の生理用品一つを取ってみても、店では購入時に隠すように黒い袋に入れて渡される。でも、むしろ生理用品ですよ、と言っているようなもの。こういう点からも日本の性に対するイメージは後ろ向きな感じがする。
 鈴木 共起ネットワークでも「生理」と「男性」が強く結びついていた。これは読者のご意見でも「生理」と「男性」がセットでよく使われていたことを意味する。周囲に「難しい」「自身」「命」「大切」という言葉も並んだ。生理については難しい問題ながら男性も関心を持つことが欠かせないということだろう。
 佐藤 性的少数者の支援・研究に取り組む松尾由希子准教授の話も示唆に富んでいた。性の多様性は学習指導要領に載っておらず、教えても教えなくてもいいことになっていると聞き、驚いた。こんな現状だから理解が十分に広がっていないのも当然。性的少数者の児童・生徒は「見えない存在」とされてきただけで本当は身近にもいるのだと気付かされた。
 鈴木 その観点で共起ネットワークを眺めると、「社会」という単語が「理解」「多様」「立場」と連なっているのが目に付く。性教育は決して個人的な問題にとどまらず「社会の多様性を理解するための教育」という視点が大切と言える。
 市川 性教育が扱う間口は幅広いが、まずは、性の誤った知識に基づく性行為をしない、させないようにするためには、大切な身体を傷つけるとどうなるのか、傷つけられるとどうなってしまうのか、「自分がされて嫌なことはやってはダメだよ」と幼少期から段階的に教えることが大切ではないか。性教育とは、詰まるところ人権教育だと思う。
 佐藤 自分も性教育は人権教育と考えるようになった。愛情を感じ、知識を得て、自分も他人も大事にする。男らしくや女らしくではなく、自分らしく生きられる世の中を目指す。そう考えると、性教育に取り組まない理由はない。
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 2021年度の下半期分として21年10月から始まった「賛否万論(さんぴばんろん)」の第4期。社会部の記者が取材に当たりました。それぞれのテーマについて、皆さんから寄せられた投稿や取材で浮かび上がった課題や記者の思いを座談会形式でまとめました。(社会部・鈴木誠之、佐藤章弘、市川幹人)

 分析方法 立命館大の樋口耕一教授らが開発した計量テキスト分析ソフト「KHCoder(KHコーダー)」を使用。「ジャッカード係数」と呼ばれる統計手法を用い、関連が特に高いとみられる単語間を線でつないで「共起ネットワーク」を描画した。今回の分析では円の大きさは単語の相対的な出現数を表している。

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