社説(3月21日)遠州織物ブランド 魅力発信へ意識改革を

 静岡県西部の地場産業、遠州織物が地域団体商標を取得して約5年が経過した。だが、地域ブランドとしての浸透が思うように進まない。
 肌触りが良い綿や麻などの上質な生地として国内外のアパレル業界で認知度が高い一方、地元で仕上げる最終製品は少なく、消費者への訴求力を欠いている。魅力の発信に向け、積極的に打って出る意識改革が必要だ。
 「いい物を作ってさえいれば認められる」時代は過ぎ去った。黒子気質からの脱却が求められる。熾烈[しれつ]な国際競争の中で生き残るためには海外の富裕層も視野に、消費者に直に訴え掛ける知恵を絞り出さなければならない。
 小規模経営ながら、プラダ、エルメス、グッチなど欧州の著名アパレルと取引を持つ織布メーカーがある。遠州織物のタグを製品に添付できないか。身に着ける物だけに、快適さや安心安全の情報という付加価値にもなる。
 欧州などでは近年、国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の観点から、綿や麻などの良さが見直されている。この時流を生かし、天然素材へのこだわり派や富裕層に売り込みたい。海外での評価を国内や地元に丁寧に伝えて環流させれば、ブランド力の向上に結び付く。
 アパレル業界は季節感や流行などニーズの変化が激しいだけに、消費者に喜んでもらえる生地の追求が欠かせない。業界内だけでなく、静岡大、静岡文化芸術大、常葉大などの大学や試験研究機関と連携した素材の開発、デザインの研究を進めるべきだ。学生の目線や感性を取り入れた生地を商品化し、幅広い世代に発信する試みも意義深いだろう。
 遠州地域はかつて愛知県三河、大阪府泉州と三大綿織物産地を形成したが、1990年代以降は安価な衣料品の輸入拡大と、国内アパレルや百貨店の業績悪化で厳しい環境が続く。遠州を中心とした県内繊維産業の事業所数は70年代に比べて6分の1、製造品出荷額は半分以下に減少した。特に職人の高齢化や後継者不足は深刻で、産地の分業体制維持が困難になっている。
 伝統の産地を守ろうと浜松市の遠州織物工業協同組合、磐田市の天龍社織物工業協同組合など4団体が2017年、遠州織物を地域団体商標に登録した。織物工場を象徴する「のこぎり屋根」のロゴマークを製品タグに付けてアピールしているほか、産地の歴史や現状を紹介する冊子を作製した。
 遠州織物を次代につなげるためにも、「知ってもらう」取り組みを一層強化したい。

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