産出額首位陥落の衝撃 既存販路から脱却模索【令和の静岡茶②/第1章 縮む現場②】
農家収入を表す産出額は既に日本一の座を譲っていた-。農林水産省が昨年3月に発表した2019年農業産出額の統計で、生産量全国一の静岡県の茶は前年比18・5%減の251億円に減少し、252億円だった生産量2位鹿児島県に初めて抜かれたことが判明した。

「逆転のタイミングがこんなに早いとは」(静岡市内の製茶問屋)「消費拡大策が急務だ」(伊藤智尚県茶業会議所専務理事)。茶どころ日本一を自負していた県内茶業者に強い衝撃が広がった。
県内茶産出額は1992年の862億円をピークに低迷が続く。2020年統計で首位を奪還したものの、約30年で3分の1以下に落ち込んだ計算だ。静岡ブランドの陰り、茶園大規模化の遅れなど理由はさまざま挙げられるが、なぜ、ここに至るまで有効な手を打つことができなかったのか。“首位陥落ショック”は少なくとも「今のままのやり方ではだめ」(静岡市内の生産者)ということを茶業者に痛感させた。
透き通った水色が特徴の山の茶を川根本町で40年以上生産している高木郷美さん(65)は近年、自ら消費者と向き合う直販に力を入れている。都内の茶愛好家らとの交流を通じ「いかに消費者ニーズに合った茶の提案ができていないか、気付かされた」。
生産者仲間とグループを立ち上げ、商業施設に露店を出して茶を振る舞う試みを展開する。「鹿児島のように大規模化できない中、ほかにはない個性をどうPRしていくかが、生き残りへ大事になる」と拳を握りしめた。
大手茶商、佐々木製茶(掛川市)の佐々木余志彦さん(63)は消費動向の変化に対応するために、ドリンク飲料や、海外で人気の抹茶向けの生産体制を強化している。
代表を務める農業法人はこれまで、本県の得意とする、濃厚な味わいと渋みが特徴の伝統的な深蒸し煎茶で、各地の品評会で農林水産大臣賞など数々の賞を獲得してきた。
「人口減少時代を迎え、高級茶が多く売れる時代が再び来るかは見通せない」と佐々木さんは口元を引き締める。「鹿児島との競争は続く。既存の販路に依存できる時代は終わり、新しい出口を考えた茶作りが待ったなしだ」