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始まりは無許可造成 「停止命令」かわし計画継続【残土の闇 警告・伊豆山⑦/第1章 変わりゆく聖地④】

 2002年末のある日、熱海市伊豆山の森林で分譲用宅地の造成計画を進めようとする業者A社の幹部を名乗る男=当時(52)=が、静岡県熱海土木事務所に姿を現した。無言で差し出された名刺には「同和」関係団体の肩書があった。職員は、男が同和問題に取り組んでいる立場を主張したいのだと、すぐに察知した。

分譲用宅地の造成現場に工事停止命令の標識を設置する県職員ら=2003年3月、熱海市伊豆山(画像の一部を加工しています)
分譲用宅地の造成現場に工事停止命令の標識を設置する県職員ら=2003年3月、熱海市伊豆山(画像の一部を加工しています)

 行政対応に、根拠もなく「差別だ」「人権侵害だ」と主張して不当な要求を重ね、許認可手続きなどで便宜を得るような行為は「えせ同和」といわれ、横行に苦慮する自治体は各地に存在した。関係機関で密に連絡を取り合うなど同様の名刺が提示された際の対処方針は県土木事務所や各市町の担当者間で共有していた。
 「申請に必要な書類が全部整えば、許可せざるを得ない」「どうせ許可通りにやらないだろう。何とかして止められないか」―。“見極め”が必要だった。熱海土木と、報告を受けた本庁の担当職員との間で緊迫のやりとりが続いた。
 本庁の土地対策担当の職員は、A社の実態把握を急いで進めていた。拠点と思われた神奈川県小田原市の担当部署に電話で素性を聞くと「問題ない業者」との返答。しかし、違和感は拭えない。一方、静岡県警からは「要注意」との助言があった。厳しい姿勢で向き合う覚悟を決めた。
 危惧した通り、A社は真冬の山あいで無許可工事を開始。隣接する宅地での許可条件違反も確認した県は03年2月と3月、都市計画法に基づく工事停止命令を相次いで出し、現場には命令公示の標識を設置した。当時、無許可に伴う停止命令は県内初の対応だった。
 命令で計画は阻んだが、この宅地を含めた約35万坪(約1・2平方キロメートル)の伊豆山の土地は06年、A社幹部とされた男が代表を務める不動産管理会社(B社)が購入する。両社は小田原市内の同じ住所を所在地にした時期もある関連会社で「事実上一体だった」(関係者)。21年7月の大規模土石流の起点となる盛り土は購入直後から、宅地のすぐ南側に造成され始める。
 「現場でパワーショベルを巧みに操っていた。(無許可での)造成行為をためらうそぶりはなかった」
 B社の代表に近かった元A社代表の60代男性がそう証言する。B社の代表が作業にいそしむ姿が忘れられない。新たな計画を進める考えを既に持っている-。男性は当時、そんな印象を抱いたという。その言葉通り、頓挫したかに思えたA社の計画はB社に引き継がれ、「夢のリゾート開発」に向けて熱海の土地がさらに買い進められていった。
 >土地購入男性の構想 リゾートの夢に突き進む【残土の闇 警告・伊豆山⑧/第1章 変わりゆく聖地⑤完】

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