デジタル教科書の実証進む 個の学び充実 吉田町立住吉小

 国のギガスクール構想による1人1台端末整備を機に、小中学校で学習者用デジタル教科書の導入検討が進む。2021年度は、文部科学省の実証事業に県内公私立の小中と特別支援学校の約4割に当たる361校が選ばれた。外国語(英語)のデジタル教科書を利用した吉田町立住吉小で子どもたちの学びの変化を取材した。

デジタル教科書をクロームブックに表示し動詞を学ぶ5年生=16日午前、吉田町立住吉小
デジタル教科書をクロームブックに表示し動詞を学ぶ5年生=16日午前、吉田町立住吉小


 5年2組の教室で16日、英語専科教員の酒井智恵教諭が大型電子黒板にデジタル教科書を映し出した。英語の動詞とイラストが並ぶ画面に触れると、「run(ラン)」、「fly(フライ)」と音声が流れる。子どもたちが自分で考えたキャラクターの能力を英語で紹介する授業。外国語指導助手と共にリズムに合わせて発音を練習した児童は、手元のクロームブックで同じページを開き、個々に発音や意味を再確認しながらプリントに英語を書き込んだ。
photo02 大型電子黒板にデジタル教科書を表示して発音を練習した授業
 出版社ごとに機能は異なるが、デジタル教科書は紙と同じ内容に加え、音声や動画も利用できるのが特徴。住吉小では、児童が知らない単語の発音を繰り返し聞き、選んだ単語に端末上で印を書き込む姿も見られた。柴桃子さん(10)は「自分で発音を聞いて練習したり、ページを拡大したりできて便利」と話した。酒井教諭も「やるべきことがしっかり伝われば、自分で考えて学びを進められる」と効果を感じる。
photo02 単語の発音を繰り返し確認する児童
 同校は、新型コロナウイルス第5波が拡大を始めた昨年夏に端末の持ち帰りを本格化した。現在は小1以外の全学年で毎日端末を持ち帰り、時間割の確認や宿題提出、オンライン学習などに使っている。デジタル教科書が使える英語以外でも、教育クラウドの「グーグルクラスルーム」や学習支援ソフト「ミライシード」を使う情報共有や意見交換が普及した。岩本幸子校長は「当初は教員間に差があったが、徐々に慣れると校内で教え合い、端末を使う授業が当たり前になってきた」と手応えを感じている。

 従来の授業は積極的に挙手をする児童が活躍する場面が多かったが、クラス全体での意見共有では、発言のない児童の意見が注目される機会も増えるという。町教委学校教育課の平井奉子指導主事は「子どもたちが自分のペースで学べる時間が増え、主体的に授業に参加する意識が高まっている」と変化を語った。


22年度「英語」全小中に

 2024年度のデジタル教科書本格導入を目指し、文部科学省は22年度に実証事業の対象校を拡大する。県教委によると、県内でも全ての小中学校と特別支援学校の対象学年に英語の学習者用デジタル教科書が無償提供される。さらに約8割の学校には英語以外の1教科が割り当てられる予定だという。
 実証事業の対象は原則小5~中3だが、21年度は対象校のうち県内約10校を重点校として、小1~4年生にも提供された。22年度の対象校や教科は3月上旬に決まる見込み。全学年で扱う重点校の小学校も10校程度指定される予定で、授業での活用方法や利用上の課題を検証していく。


学習の選択肢拡大 常葉大教育学部専任講師・三井一希

  photo02 デジタル教科書や1人1台端末の効果を語る三井一希専任講師=15日、静岡市駿河区の常葉大静岡草薙キャンパス
 小中学校における1人1台端末の活用状況やデジタル教科書の特徴について、三井一希常葉大教育学部専任講師(39)に聞いた。

 ―学習者用デジタル教科書の効果は。
 「1人1台端末を前提に、個々の子どもに応じた使い方ができるのが特徴。音声や画像、動画、グラフの書き込みなど、紙の教科書にはない機能がある。従来は授業中に教員を見て覚えるしかなかったことを学習者が体験しながら学び、授業後に同じ体験を繰り返すこともできる。紙の経験しかできなかった子がデジタルも経験することで、認知特性に応じた学びの選択肢が広がる。社会にデジタル情報が増える中、メディアの特性を踏まえ情報を読み取る能力も育つ。一方、現状では出版社や教科で機能が異なることによる負担や、ネットワーク環境により読み込みが遅いなどの課題も存在する」
 ―コロナ第6波の中、学級閉鎖や休校時の端末利用は市町や学校で差がある。状況をどう見るか。
 「地域の環境は多様で、端末利用が進まない学校の苦しさも理解できる。しかし、この期間にオンラインで遅れず学習できた子やICTの対応スキルを身に付けられた子と、その機会を逃した子との間には大きな差が生じる。子どもたちは端末の利用を通じ、教科の内容だけでなく学び方も身に付ける。教育の機会均等のためにこの差は縮める必要がある」
 ―教員の能力差は解消できるか。
 「教員は自分が完璧にできないと子どもたちに教えられないと思ってしまいがちだが、逆上がりができなくても鉄棒の授業はできる。得意な子に助けてもらうという割り切りも必要。教員は、授業を組み立てて子どもたちの学びを支援するのが役割。あくまで学習者を主体として、紙とデジタルの双方を経験させて子どもの可能性を広げることがギガスクール構想の目的だ」
 ―端末の持ち帰りはどうするべきか。
 「筆箱と同様の学習道具として持ち帰りを進めるべきだ。保護者自身が経験していない学びの在り方について、理解を広める機会になる。授業で作った資料や成果を家の人に見せるなど、学校と家庭の学びをつなげる効果もある。端末利用で生じる新たなトラブルは、将来、社会で直面する危機を学校で教えられるチャンスだと捉えてほしい」

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