富士川 維持流量設定へ 水利権巡り国交省方針 水枯れ改善へ転機

 駿河湾産サクラエビの不漁を契機に注目される富士川の河川環境について、国土交通省は17日、渇水期でも維持すべき流量として「河川維持流量」を設定すると発表した。戦時期から続く日本軽金属の水利権が存在し、これまで調整が難しい面があった。水枯れが伝えられる富士川本流の河川環境にとって大きな転機となりそうだ。

日本軽金属塩之沢えん堤(中央)で自家水力発電用の水が大量取水され河川下流の水量が極端に少なくなっている富士川本流。右岸には波木井発電所がある=2021年8月、山梨県身延町(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
日本軽金属塩之沢えん堤(中央)で自家水力発電用の水が大量取水され河川下流の水量が極端に少なくなっている富士川本流。右岸には波木井発電所がある=2021年8月、山梨県身延町(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)

 同日の衆院予算委員会分科会で田中健氏(国民民主党、比例東海)の質問に、井上智夫水管理・国土保全局長が答弁した。井上局長は「2022年度中には維持流量を設定する」と述べた。さらに、20年3月に水利権の更新期限を迎えた日軽金波木井発電所(山梨県身延町)について「取水を減らして河川の水を増量できないか流域自治体や日軽金と合意形成を図っている」と明かした。
 国の固定価格買い取り制度(FIT)を使って売電している波木井発電所の取水量が一定程度減ることで、維持流量の設定が可能になるとみられる。
 富士川水系には1922(大正11)年に水利権を許可された波木井発電所をはじめ、日軽金が自家発電用に使用する施設が多数ある。発電のため取水した水は基本的に川に戻らず、導水管を経て同社蒲原製造所(静岡市清水区)の放水路から駿河湾に注いでいる。このため、富士川本流の水量は慢性的に少なく、釣りやラフティングなどのスポーツを行う人たちが維持流量設定を強く望んでいた。
 上流域の濁りや不法投棄された有害物質は希釈されず、放水路からサクラエビの産卵場の湾奥に注ぎ、漁師らからも水利権を疑問視する声が出ていた。
 田中氏は「住民への説明なくFITでの売電を行うのはガイドライン違反では」と指摘。資源エネルギー庁の茂木正省エネルギー・新エネルギー部長は「違反の場合、法に基づき指導する。改めて事業者に事情を聴き、関係自治体に確認する」と答弁した。
 (「サクラエビ異変」取材班)

 河川維持流量 1997(平成9)年改正の河川法1条を受け、施行令10条で設定が求められている河川環境保全のための目安。1級と2級河川において策定が義務付けられた「河川整備基本方針」などの中に盛り込むよう定められている。国土交通省によると、国が管理する109の1級河川のうち、富士川を含めた1割強の14河川でいまも設定されていない。

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