漁獲自主規制継続を 不漁の原因、学会誌で考察 産卵盛期の遅れ影響訴え/東京海洋大・大森名誉教授【サクラエビ異変】

 駿河湾産サクラエビの研究で知られる大森信東京海洋大名誉教授(84)が25日発刊の学会誌で、その不漁の原因に関する考察を発表する。春漁の際に湾奥で取り過ぎたことが引き金になり、卵や幼生の成育環境が崩れていることを指摘。漁業者が漁獲の自主規制を継続し、初夏に湾奥で産卵が行われるようにすることの重要性を訴えた。

大森信東京海洋大名誉教授=2021年4月、神奈川県藤沢市
大森信東京海洋大名誉教授=2021年4月、神奈川県藤沢市

 「日本プランクトン学会報」で発表する論文は「サクラエビ不漁の原因についての仮説の検証」。第三者による査読が終了した。近年の春漁では「頭黒」と呼ばれる成熟卵を持つ雌の減少を感じている漁業者が多く、産卵盛期の遅れのため、幼生の湾外流出や、餌の植物プランクトンが滞留しやすい富士川沖での摂餌機会に影響を与えているとした。
 さらに、産卵初期の卵径が大きい卵ほど幼生の生存率は高まる一方、そうした卵が湾奥から流出した場合、資源維持にとってマイナスになると説いた。
 論文は美山透海洋研究開発機構主任研究員と田中潔東京大准教授との共同研究の成果。湾内に黒潮系水が入り込む黒潮大蛇行が続いていた2020年6~9月のデータにもとづく美山主任研究員らのシミュレーションで、富士川河口の下層(水深5~45メートル)で生まれた卵や幼生の平均残留率は、安倍川や大井川沖よりも数十ポイント高いことを突き止めた。
 大森名誉教授は「夏以降、駿河湾では岸沿いの左旋回流の影響を受けて親エビの群れの多くは湾奥から湾西部に移動する」と指摘するとともに、夏以降に湾西部で生まれた卵や幼生の多くは湾外に流出すると強調。不漁前の1990年代の産卵盛期と0歳エビの単位漁獲量データを考察し、産卵盛期の遅れが資源量の減少につながっていることに説得力を持たせた。
 論文は森と川、海の連環についても行数を割いているのが特徴。「急激な開発と環境汚染が沿岸域の生物生産力を低下させていると思われるが、組織だった調査研究はほとんどない」などと問題意識を表明している。
 (「サクラエビ異変」取材班)

 ■県の専門家研究会 最終会合 3月に成果発表
 駿河湾産サクラエビの不漁を契機に県が設置した「『森は海の恋人』水の循環研究会」の最終全体会合が16日、県庁であった。一部オンラインの会合にメンバーらが出席。2019年7月から続けた議論の成果について3月に発表し、22年度に物質循環などのシミュレーションモデルを公開することを決めた。
 同研究会は全体会合を7回、陸域、海域の各部会をそれぞれ3回実施した。最終会合では、南アルプスから富士川や大井川などを経て駿河湾に至る窒素やリン、濁りの様子などが分かるシミュレーションモデルを構築中の企業の発表を聴き、基になる実測データの扱い方や活用法に対し意見を述べた。
 完成するモデルは40年ほど前までさかのぼり、物質循環の流れなどを追い掛け、最近の環境の状況と比較できる。
 サクラエビの幼生の餌となる植物プランクトンの量の推定値や、主産卵場の富士川河口の水質変化もパソコン操作で見ることができるようになる。県は、関係者がモデルを駆使して不漁を解決するための糸口をつかむことを期待する。
 県は同研究会に計9150万円を投じた。難波喬司副知事は「プラットフォーム(基盤)のモデルができ、自然と人とのつながりを考えることができる段階に移ることができる」と締めくくった。

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