課題山積 続く事後調査 流域、追加対策求める【大井川とリニア 最終章 環境アセスは機能したか⑤完】

 リニア中央新幹線南アルプストンネル工事に伴う大井川水問題を巡り、静岡県とJR東海の膠着(こうちゃく)状態を打開するために設置された国土交通省専門家会議。2020年4月の初会合で、JRの金子慎社長の発言が波紋を呼んだ。

非常用トンネル坑口の予定地で工事概要を説明するJR東海担当者(右)。リニアを巡る環境アセスは今後も続く=2021年11月下旬、静岡市葵区
非常用トンネル坑口の予定地で工事概要を説明するJR東海担当者(右)。リニアを巡る環境アセスは今後も続く=2021年11月下旬、静岡市葵区

 「環境影響評価法に基づくアセスを完了し、工事の認可をもらった」「県から実現しがたい課題が課せられている」
 関係者には環境影響評価(アセスメント)軽視の姿勢に映った。「環境アセスはまだ完了していない」(専門家会議委員・大東憲二大同大教授=環境地盤工学)。金子社長はのちに発言を撤回したが、13回にわたる専門家会議の会合で同様の指摘が繰り返された。
 環境アセス制度は「事後調査」の仕組みを定めている。事業が認可された後も、予測の不確実性が生じる場合などは、工事前から工事後にかけて追加調査を行い、予測や評価を修正して環境保全対策に生かす。現在も進行するJRと県による協議も、環境アセスの事後調査の枠組みで行われている。
 JRは制度にのっとって、手続きを進めてきた。事業認可後の14年8月に「事後調査計画書」を提出し、大井川上流の河川流量などのモニタリング(計測)方法を盛り込んだ。トンネル掘削に伴って湧き出る水を自然流下させる「導水路」の設置計画を追加で示した。地下水位や沢の流量の計測も進めている。
 「ただ、当初は幹部を含めてアセスを事業認可のための『手続き』と思っている社員がいた」と大東教授は指摘する。愛知県環境影響評価審査会会長も務め、JRの一連の対応に接してきた。「静岡も愛知も当初は最低限の情報しか出なかった。情報公開は事業実施の障害になるという考えがあったのだろう。早期着工や工事の安全性の意識に比べ、環境配慮の優先度が低かったのでは」と振り返り、事後調査の重要性を強調する。
 1年8カ月の専門家会議では、JRはこれまで出さなかったデータを提示し、分かりやすい説明に改善しつつある。昨年10月の記者会見で金子社長は流域の心配や懸念に「時間をかけて対応する」と述べた。
 ただ、大井川流域自治体や利水団体の不安は依然大きい。「ダムの貯水量が少ない時期の影響はどうなるのか」(大井川土地改良区の内田幸男理事長)。今月20日に開かれた大井川利水関係協議会では、首長や利水団体から疑問が相次いだ。
 大井川直下のトンネル掘削には、県が許認可権を持つ河川法の審査も控える。利水や治水に支障を生じる恐れがないことが審査基準の一つとなり、環境アセスの結果が審査では重要視される。水問題は上流の動植物への影響とも切り離せず、生態系の保全に向けた追加対策も必要になる。
 今後も続く、環境アセスによる検討。県くらし・環境部の田島章次理事は「課題は山積み。JRは環境保全への意識をさらに引き上げ、効果的な具体策を示さなければならない」と求める。
 (「大井川とリニア」取材班)

 <メモ>静岡県とJR東海の科学的議論で残された課題 工事期間中を含むトンネル湧水の「全量戻し」の方法をはじめ、大井川上流に計画する残土置き場の安全性や水質の管理、上流域の地下水位低下による動植物への影響などの解決策がJR東海から提示されていない。長期的な影響の有無を確認するため、JRと県、大井川流域の自治体が協力して河川流量や地下水位などを計測し、データを共有する体制の構築も必要になる。

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ