平行線の地元説明 説得型からの転換が鍵【大井川とリニア 最終章 環境アセスは機能したか④】

 環境影響評価(アセスメント)は、開発事業者が自治体や住民ら関係者の意見を取り入れながら、環境に配慮された事業計画に見直す手続きだ。「事業者は関係者との情報交流が不可欠」(環境省資料)とされる中、JR東海はリニア中央新幹線事業について、どのように地元と「情報交流」を図ってきたのか。

JR東海が静岡市葵区井川地区で2013年に一般住民向けに開いた説明会。中下流域で一般住民向け説明会の開催は確認できない
JR東海が静岡市葵区井川地区で2013年に一般住民向けに開いた説明会。中下流域で一般住民向け説明会の開催は確認できない

 制度で位置づけられた情報交流の機会は、審議会での専門家への意見聴取や一般住民向け説明会がある。JRの資料や過去の報道をたどると、同社は法に基づくアセス準備書段階の一般住民向け説明会を2013年に開催している。会場はリニア路線が設定された静岡市内。大井川の水量や水質の影響が及ぶ可能性がある流域10市町(島田、焼津、掛川、藤枝、袋井、御前崎、菊川、牧之原、吉田、川根本)での開催の記録はない。
 流域の利水団体を対象にした非公開の説明会は、13~18年に島田市内で5回、開催の記録が残る。18年7月、5回目の説明会の後、取材にJR担当者は「丁寧に対応したつもり。理解は深めてもらったと考えている」と答えていた。一方、利水関係者らは「納得できない」「溝が埋まらなかった」。対話は平行線だった。
 説明会の具体的な開催方法に法的な規定はない。工事が先行する岐阜県では、情報交流をどう担保するのか、自治体の模索が続いている。
 トンネル工事で発生した残土の恒久処分場が計画される岐阜県御嵩(みたけ)町は、渡辺公夫町長が20年5月に残土受け入れを拒否したが、21年9月に一転して容認を表明した。残土は自然由来のカドミウムなどの重金属を含み、対策が必要。アセス法に基づく住民説明会は13年10月に開かれた。「(残土管理に関する)JRの説明に具体性がなかった。『適正に処理する』と言って押し通した」と地元自治会の前会長で町の環境課長も務めた纐纈(こうけつ)久美さんは振り返る。
 住民の不安や不信感はぬぐえず、町は今年1月中旬、対話促進を図る「検討会議」の設置を公表した。専門家とJR担当者の協議を傍聴しながら住民も議論に参加できるフォーラム形式とし、22年度に公開で6回程度開く。担当する同町企画課の中井雄一郎参事は「審議会形式も考えたが、住民が疑問点をJRに直接ぶつける場を設定した。結論ありきではなく自由に質問できる形にしたい」と狙いを話す。
 静岡県はこれまでもJRとのやりとりを「対話」と位置付けてきた。国土交通省専門家会議が昨年12月にまとめた中間報告には、技術的な見解に加えて、県や流域との「双方向のコミュニケーション」の必要性が強調された。県はその趣旨を「自分の考えを押し通そうとする説得型ではなく、地域の意見を十分に聞き入れながら対話する対応を(JRに)求めている」と読み解く。
 (「大井川とリニア」取材班)

 <メモ>環境影響評価の住民意見聴取 現在の環境影響評価法では、第1段階の配慮書で住民への意見聴取の努力義務が事業者に課され、第2、3段階の方法書と準備書で、地域に周知した上でそれぞれ住民向け説明会を開いて意見を聴くことが義務付けられている。法律に基づくアセスの対象になる比較的大規模な事業は、対象地域だけでなく広く一般の意見を聴くことが求められている。

 

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