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工区設定 説明なく進行 湧水の県外流出、後出し【大井川とリニア 最終章 環境アセスは機能したか③】

 「県内のトンネル掘削時に出てくる湧水は確実に静岡県側にポンプアップされる計画になっているのか」―。2018年11月、県環境影響評価条例に基づき設置された県有識者会議で、委員がJR東海の担当者に疑問を投げ掛けた。

南アルプストンネルの縦断図
南アルプストンネルの縦断図

 この質問が「トンネル湧水の県外流出」の問題に発展していく。JRが14年10月の事業認可を受けるまでに行った環境影響評価(アセスメント)の一連の法手続きでは、一度も取り上げたことのない課題だった。
 リニア中央新幹線南アルプストンネルの県内区間(10・7キロ)は東側1キロは山梨工区に、西側0・7キロは長野工区に含まれ、県境と工区の設定が一致しない。山梨、長野の各工区の掘削で湧き出た水は、トンネルの傾斜で県外に流出する懸念がある。昨年暮れまで1年8カ月にわたる国土交通省専門家会議でも中心的な議題となった。
 JRは14年8月、アセス法に基づく評価書を都県単位でとりまとめ、大井川の水資源への影響については「先進坑(先に掘る作業用のトンネル)が隣接工区と貫通するまでの間は、トンネル内に湧出した水をくみ上げて非常口から河川に戻すことから、河川流量は減少しない」と明記した。
 当時、県境と工区設定がずれるという説明はなかった。県担当者は「説明がなければ、普通は県境と工区が一致すると考える。湧水の県外流出の問題も出てこない」と受け止める。JRの公表資料によると、山梨工区の設定は15年3月よりも前とされているが、その具体的な時期は明らかにされていない。担当者はJRのこの対応に疑問を呈する。
 評価書作成から5年後、JRは県側との意見交換会で湧水の県外流出の説明を始めた。「(工区間の)トンネルがつながらない一定期間の工事中は水を戻せなくなる」。湧水でトンネル先端が水没した場合、工事作業員の安全確保が難しいとした。
 山梨、長野両工区の県内区間で流出する湧水は県内に戻すことができず、評価書の記述とは食い違うことになる。
 「評価書作成に慎重を期し、今日の申請に至った。工法などは十分な議論をして申請した」。14年8月にJRが事業認可を申請した際、岩田真執行役員中央新幹線推進本部副本部長(当時)はこう発言していた。
 実際には工区設定の課題は触れられないまま、アセスの手続きが進められた。県幹部は今、JRの評価書後の対応を踏まえ「検討は十分ではなかったのでは」といぶかる。
 環境省によると、評価書の記載と実際の事業内容に食い違いがある場合、軽微な変更であればアセスを再実施する必要はない。軽微かどうかの判断は事業者に委ねられているのが現状だ。
 (「大井川とリニア」取材班)
 
 <メモ>環境影響評価(アセスメント)を行う行政の単位 県境をまたぐ大規模な開発事業の場合、環境アセスの各段階の手続きは原則、都道府県単位で行われる。東京・品川―名古屋間のリニア中央新幹線は沿線7都県ごとに分けて、各都県の審議会などで地元の意見を検討、集約して知事意見をJR東海に送った。「広域にわたる影響がある」として、行政区域で対象エリアを分けない広域アセスの導入を求める専門家もいる。

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