不登校 支援の在り方は?② 有識者インタビュー【賛否万論】

 全国的に増え続ける不登校。国や県はその理由について、不登校自体を否定しないことをうたった「教育機会確保法(確保法)」の存在もあるとしています。確保法はそれほど浸透しているのでしょうか。浜松市南区で不登校支援に当たるNPO法人フリースクール空(そら)理事長の西村美佳孝(みかこ)さんに現状や課題について聞きました。

西村美佳孝さん
西村美佳孝さん


 

確保法 小学校入学時に説明を 


 ー確保法は浸透していると思いますか。
 浸透しているとは思えません。国が方針転換し、不登校自体を否定しないと明言したことすら知らない人が多い。義務教育は子どもが学校に行く義務という誤解も相変わらずです。子どもに学校に行く権利はあっても義務はないと認識している人がどれだけいるでしょうか。

 ーどうしたら浸透しますか
 小学校入学時に確保法を説明するべきです。「お子さんが学校に来るのは義務ではなく、権利です。子どもには休む権利もあります」と明言してほしいですよね。確保法をコピーして保護者に配ってもいいでしょう。
 また、子どもに「休む権利があるんだよ」と言える先生はどれだけいるでしょうか。「なるべく休まないように」と言っているから、何日か続けて休むと級友から「なんで休んだの?」「ずる休み?」って言われちゃう。国は確保法を作ったけど、不登校生を増やしたくない学校現場と、子どもが学校を休んで家にいたら困ってしまう一部の親にとって、確保法は〝不都合な真実〟で、子どもには知られたくない。矛盾だらけです。
 
 ー不登校増加は確保法が浸透したからとも言われています。
 全く関係ないと思います。価値観や物事の多様性が昔と全く変わっている。不登校が増えるのも当たり前です。時代の変化に学校が追い付いていない。だから、不登校を減らすとか、無くすという話でなく、時代に合った多様な学び方を選べるようにするしかない。お客さんが来なくなったお店は、どうしたら来てくれるかいろいろ考えますよね。でも学校は、お店とは違う、子どもに迎合しないというプライドがある。教科学習だけならネットで何でも学べる今、学校は子どもにとって魅力のある場所ではなくなってきている。学校に子どもが合わせろという姿勢では、子どもが離れていくのは止められません。

 ー学校の方が世間から離れてしまっているのでしょうか。
 親世代は学校に疑問を持ち続けていますよね。モンスターペアレントと思われたくないから言えないだけで、学校がおかしいと感じていることは山のようにある。最近ブラック校則が見直され始め、それは良いことだと思います。私も中学の時、前髪やスカートの長さを物差しで先生に測られて、世界一くだらないと思いました。教育を志して教師になった先生にあんな屈辱的な仕事をさせてはいけないと思います。
 学校よりも社会の方が厳しいんだぞって大人はよく言いますが、逆です。学校ほど厳しい社会はないと思います。最近は地域住民も入り、学校も努力されていますが、ほとんどの先生は企業で働いた経験がなく、社会に出たら厳しいぞっていうのは説得力がない。子どもたちは学校が社会の縮図かのように誤解し、そこで耐えられなければ自分は将来何もできないと思ってしまいます。

ー一般に浸透しない一方で、ネット上では確保法を拡大解釈した言説が散見されます。
 学校に行っている子を見下してるのはダメですよね。「学校に行ってる子はロボットみたいだ」と言っている動画もありましたが、それは言っちゃいけない。学校に行かないこともいいけど、学校に行くこともいい。認め合わなきゃいけない。学校に行かないことをエンジョイしている自分が正しいみたいに主張するのは違う。不登校は苦しむものではないけど、楽しむべきというものでもない。いろいろな生き方があっていいと認め合うことが大事です。

 

教育現場にも浸透せず


 ー確保法は学校とフリースクールとの連携をうたっていますが、実態はいかがでしょうか。
 ある校長が私たちのフリースクールへの出席を認めてくれないことがありました。担任の先生に確保法を見せ、大事な所に蛍光ペンを引いて、こういうのがあるんですって説明して、やっと認めてもらえました。それほど現場にも浸透していない。
 確保法ができた時に国の補助制度ができるかもと期待しました。フリースクールにお金を出すか否かという国の議論は過去何度もありました。ただ、認めるとみんなフリースクールに行っちゃうっていう、そんなことあるわけがないのに単純にそんな結論になって、いつも議論が終わってしまう。確保法で前進を期待したんですけど、同じ議論が繰り返されただけでした。

 ー金銭的にフリースクールを選べない家庭もあります。
 うちも月謝は2万~3万円かかります。学校の先生に「結構取るんですね」って言われたことがあります。安くしたいのはやまやまですが、家賃やスタッフの給料や活動費がかかる。ずっと赤字会計でどれだけ苦労して運営しているかご存じない先生に月謝が高いと言われるのは心外でした。困窮家庭の子がフリースクールに行けないという状況はつらい。フリースクールに補助が必要というより、子どもが不登校になった時、その子に合った学びの場が選べるように国から家庭への補助金を出してほしいです。

 ー協力的な先生もいますか。
 もちろんです。担任、学年主任、教頭先生、校長先生が子どもの様子を見に来られ、本当にありがとうございますと頭を下げてくださったこともあった。この子たちが来られる場所があって良かったですと。先生にしたら自分のクラスや学校から不登校を出すのは残念なのは分かります。でも、学校が合わなかった子がここで楽しそうにしていて、友達もいて何かに打ち込んでいる姿を認めて喜んでくださる先生は本当に心があると思います。

 ー浜松市長への意見箱に投稿したこともあったそうですが。
 フリースクールへの支援をお願いしましたが、担当課からは適応指導教室を増やしているから不登校対策は十分やってますという分かりきった答えだけでがっかりでした。2021年4月開校した岐阜市立草潤中学校(※中部地方初の公立不登校特例校)はなぜ公立でこんなことができるんだろうと思って調べたら、前の教育長さんが素晴らしい方だった。ちゃんと思想のある教育者がトップに立つって大事なことなんだと思いました。

 

学校以外の世界は広い


 ー不登校はどんな理由が多いと感じていますか。
 真面目で優しい子、完璧主義な子がなりやすいです。いじめはきっかけの一つとしてありますね。もともと集団が苦手な子もなりやすい。それと発達障害や精神疾患。先生や部活の先輩が怖いとか、ストレスから体の不調が出てくる。学校に行こうとするとおなかが痛くなる、倒れちゃう、熱が出る。自分でもよく分からないケースも多いですね。どうして学校に行けないの?と聞かれても説明できない。自分は行きたいし、行こうと思ってるんだけど、体が拒否する。そうなると限界。親も最初は引きずってでも行かせようとするけど、青ざめて震えだしちゃって、もう無理だ、この子を行かせちゃいけない、このまま学校に行かせたら死んじゃうって諦めるケースもあります。

 ーその時に他の学びの選択肢がないと家に引きこもってしまうのでしょうか。
 そう思います。浜松市内の不登校の児童生徒は1400人以上いますが、うち適応指導教室やフリースクールに行けている子は限られていて、多くの子は家にいると推測されます。親だけここに見学に来て「今度子どもも連れて来ます」と言うんですが、子どもはやっぱり玄関から一歩も出られない。母親がここの子たちを見て泣きながら帰るんです。「ここの子たちはいいですね。うちの子も来させたいのに」って。大半の子が外に出たくても出られないのが実態かと思います。

 ー最後にメッセージを。
 不登校は親子とも自分自身に向き合うチャンスです。人間は学校に行くために生まれてきたわけではないし、学校は人生のごく一部の時期。学校を出た後の人生の方が長いので、学ぶにしろ、やりたいことを見つけるにしろ、学校を出てからでも遅くない。子どもの世界は学校と家しかないので、学校に行けなくなったら自分は終わりだって思ってしまいがちですが、そうじゃなくて、学校以外の世界は広いよって言いたいですね。

にしむら・みかこさん 1965年生まれ。浜松市内のフリースクール講師を経て、2008年から同市南区楊子町で自らもフリースクールを開設した。常に子どもたちの意志を尊重し、子ども同士の横のつながりづくりに力を注ぐ。バンド活動もスクールの特色。

 

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