生まれ変わる建物 東伊豆町・稲取地区 空き家から集いの場に

 高度成長期から平成初期にかけて団体旅行客が押し寄せ、にぎわいを見せた東伊豆町の温泉街・稲取地区。宿泊客の減少や高齢化で空き家が増えたこの地区で、空き物件のリノベーション(改修)を軸に、活性化を図ろうとする若者たちがいる。多くは学生時代に町外から稲取地区に関わりを持ち続け、中には移住した人も。住民たちも彼らを温かく迎え入れ、活動が花開こうとしている。

民家→宿泊施設 失敗糧に移住者奮闘

民家を改装したゲストハウス「赤橙」。完成したこの日は、荒武優希さん(左から4人目)ら改修に携わったメンバーが集った
民家を改装したゲストハウス「赤橙」。完成したこの日は、荒武優希さん(左から4人目)ら改修に携わったメンバーが集った

 東伊豆町の稲取漁港にほど近い住宅地。車1台がようやく通れる路地を入ると、稲取では珍しい庭付きの民家が見える。同町の合同会社「so―an(そうあん)」の共同代表、荒武優希さん(30)は1月、空き家だった民家を宿泊施設「赤橙(せきとう)」として改修しオープンさせた。「赤い実を付ける庭の柿の木から着想した」と施設の名前の由来を説明する。
 横浜市出身の荒武さんは芝浦工業大大学院生だった2014年、学生仲間と東伊豆町内の空き家を改修するプロジェクトに参加し、稲取地区と関わり始めた。卒業後は同町に移住し、16年から町の地域おこし協力隊として3年間活動。仲間や地域住民とNPOを設立し、空き店舗を改修したワーケーション施設などの運営に携わる。協力隊退任後は、現役隊員の藤田翔さん(23)と共に空き家を改修した宿泊施設2棟も運営する。
 「空き家改修は失敗から始まった」と荒武さんは明かす。公民館の離れを茶室に改修したが、町民は誰も使わなかった。「学生の自己満足だった。住民に使われるかを考えなければと気付いた」。そこからは、地元の町民と関係を築き、これまで仲間と町や民間が所有する5棟の空き家・店舗の改修に関わってきた。
 活動の中で、新たに加わる仲間も増えた。静岡大生時代、フィールドワークで稲取を訪れ、荒武さんと知り合った北海道出身の梅田留奈さん(23)もその一人。都内の広告会社に勤務しながら、デザインの分野で携わる。「温かな地元の人にまた会いたくなる」と稲取の魅力を語る。
 「赤橙」はまだ、小さな実を付けたばかり。荒武さんの妻で香川県出身の悠衣さん(25)が、今夏に建物内でカフェをオープンする予定だ。悠衣さんは「地元の人も集う場所に」と思い描く。
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天井は港町をイメージする帆布で覆い、庭の見えるダイニングスペースに生まれ変わった
 
 

消防団倉庫→シェアキッチン 常連客ひっきりなしに

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稲取高被服食物部員が調理した食事を提供する「あったかふぇ」。ダイロクキッチン恒例イベントの一つで、来店客は常連も多い
 
   東伊豆町稲取地区の空き家改修は、いずれも芝浦工業大大学院生時代に荒武優希さんとプロジェクトを設立した仲間で、建築士の守屋真一さん(31)=東京都=と、門井慎之介さん(30)=千葉県=が携わってきた。消防団の器具倉庫だった建物を改修し、2016年にオープンしたシェアキッチン「ダイロクキッチン」は、彼らの“本格デビュー作”だ。
 同キッチンでは、昨年12月に稲取高(同町)の被服食物部が食事を提供する月1回の「あったかふぇ」が開かれた。コロナ禍で約1年、中断を余儀なくされたが、6年目を迎える。開店中の2時間は常連の高齢者ら客がひっきりなしに訪れる。同部の遠藤那奈羽部長(17)は「地域の温かさを感じる場所になっている」と実感する。
 ダイロクキッチンは地域住民が読書会を開催するなど、貸しスペースとしての機能も持つ。管理人の稲岡麻琴さんは、地元住民の立場で活動に携わり、若者たちを支えてきた。「町を良くしたいという思いに賛同した。徐々につながりが広がっている」と成長を見つめる。
 守屋さんと門井さんは昨年、知人の中西海人さん(28)=東京都=を加え、建築設計グループ「monaca(もなか)」を結成。3人で稲取に通う日々が続いている。守屋さんは空き家改修の意義を「改修の過程で多くの人を巻き込める。新築よりもコミュニティーをつくりやすい」と強調する。その上で「事業が継続できるかを考え、建物を段階的に改修しながら使うことも必要」と、持続可能なまちの発展を模索する。

  photo02 消防団器具倉庫を改修した「ダイロクキッチン」。外観は倉庫時代の雰囲気をそのまま残す  

改修に関わった建物

  photo02 (上から時計回りに)土産物店→カフェ TATENOICHI/会社事務所→シェアオフィス EAST DOCK/民家→宿泊施設 錆御納戸    photo02  

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