大自在(1月15日)三ケ日町農協の独自路線

 旧引佐郡(現浜松市北区)の取材を担当していた1990年代初め、引佐、細江、三ケ日3町の各役場と各農協に足を運ぶのが日課だった。その後、市町村と農協の合併は進んだが、三ケ日町農協だけは今もそのまま残っている。
 今シーズンから全国に先駆けて導入した人工知能(AI)搭載のミカン選果機について話を聞くため、久しぶりに訪れた。農協職員の「三ケ日みかん」に対する誇りと情熱は30年前と変わらなかった。むしろ高まっているようにも思えた。
 天竜川以西の14農協が95年に合併して生まれたとぴあ浜松農協に加わらなかった理由は、「三ケ日みかん」のブランドを守るためだった。全国の温州ミカンの生産量がピークを迎えた40年前の5分の1に減る中でも、年間3万トン前後をずっと維持している。
 合併協議の過程で、全国ブランドがあるといっても小さな農協が単独で運営していけるのかと、疑問や懸念の声も目立った。今のところ、合併不参加は正解だったといっていいだろう。
 AI選果機を備えた施設の建設は、生産者の減少や高齢化を踏まえた省力化の取り組みで、国や県、浜松市の補助を得て約80億円を投じた。今後も市場で高い評価を得るため選果をさらに徹底し、「三ケ日みかん」で生きていく決意を示したことになる。
 4月には県東部8農協が合併して富士伊豆農協が誕生する。県内ではここ数年、信用金庫の統合も進んだ。企業や団体が生き残りのため規模拡大を図る流れの中で、独自路線を歩み続ける三ケ日町農協にはエールを送りたくなる。

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