静岡講演の翌日死去、海老原宏美さん インクルーシブ教育の先駆け “最後の肉声”公開

 障害のある子が通常学級に入る「インクルーシブ教育」を体現した先駆者で昨年末に44歳で死去した海老原宏美さん(NPO法人自立生活センター東大和理事長、川崎市出身)の“最後の肉声”を全国に届けようと、県社会福祉協議会が海老原さんの講演をインターネット上で公開している。海老原さんは静岡市内で開かれた「地域共生推進フォーラム」にオンライン参加した翌日の昨年12月24日に亡くなった。旧知の間柄でフォーラムを主催した県社協の高橋邦典常務理事は追悼の意を示し、「命賭けのメッセージを一人でも多くの人に伝えたい」と言葉に力を込める。

亡くなる前日、入院先の病院から声を届けた海老原宏美さん(県社会福祉協議会が公開している動画より)
亡くなる前日、入院先の病院から声を届けた海老原宏美さん(県社会福祉協議会が公開している動画より)

 「私の人生は歓迎されないところからのスタートだった」。生まれた時から進行性の難病「脊髄性筋萎縮症」を患っていた海老原さんは最後の講演で半生を振り返った。両親は早期に自立に向けて気持ちを切り替え「この地域の子だから」と地元の小学校に入学させたが、教育界の理解があったわけではなく「母が闘っていた」。両親は基本的に手を貸さず、海老原さんが周囲の人に頼む勇気を持つよう促して育てた。海老原さんは「人サーフィン」という造語とともに、両親の方針に感謝していた。
 講演では「息をしているだけでほめられる風潮に違和感がある」と投げ掛け、分離教育は「『あなたのため』という思いやり差別で本人に選択肢がない」と批判した。弱者の象徴として声を上げれば「高齢者や子ども、皆に優しい街をつくれる」。経験と視点を生かそうと、今後の活動に意欲を示していた。
 「静岡に行きたかったが、10月から急に心臓の調子が悪化し止まりそうで入院した」と前置きしつつも、オンラインでの受け答えははつらつとしていた。最後に「えびちゃん、またね」という会場からの声に明るい表情で応じた。
 母けえ子さん(72)は「多くの良き仲間に感謝している。宏美は偏見や差別を根本から排除する使命感を持ち、命が途絶える寸前まで訴え続けた」とたたえた。志半ばで旅立った娘を思い「かなえたかったことを何とか後世につないでいって」と共生社会の実現を願った。
 動画は県社協のホームページから閲覧できる。

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