「二人三脚」突然の終止符 筋ジスの妻、息子の20歳見届け永眠【障害者と生きる 第2章 成長㊦】

 渡辺裕之さん(58)=静岡市清水区=の妻美保さん(仮名)に明らかな筋力低下の症状が現れ始めたのは、息子隼(しゅん)さん(24)が小学3年の時だった。その後も筋力は衰え続け、隼さんが中学1年になった2010年、当時40歳の美保さんはつえがないと歩行が困難になり、急に力が抜けて転倒することも増えた。

妻美保さん(仮名)の仏壇に手を合わせる渡辺裕之さん=2021年5月下旬、静岡市清水区(画像の一部を加工しています)
妻美保さん(仮名)の仏壇に手を合わせる渡辺裕之さん=2021年5月下旬、静岡市清水区(画像の一部を加工しています)

 筋ジストロフィーの合併症とみられる糖尿病と白内障も発症。介護する裕之さんを特に悩ませたのは、美保さんの過剰な眠気と意欲減退の症状だ。食事制限を守らない美保さんをつい責めることもあった。
 「『病気じゃない人に私の気持ちは分からない』って言われました。でも、支える側は前向きに病気と向き合ってほしいと思ってしまう。それで口論になってしまいました」
 隼さんが高等部に進んだ13年、美保さんは体のしびれを訴えて搬送され、車いす生活になった。免疫力が下がり、隼さんと交互に体調を崩す日々。それでも美保さんはまだ座りながら息子の介護ができた。たまにけんかはするけれど「夫婦二人三脚でならこれからも歩んでいける」-。そう信じていた。
 18年10月27日の明け方。目を覚ますと布団に美保さんがいない。隣の部屋に行くと、テレビをつけたままソファで横になっていた。「布団で寝て」。体を揺するが、反応がない。「うそだろ…」
 119番をし、無我夢中で心臓マッサージをした。しばらくして到着した救急隊員が告げた。「ご主人、奥さまは既に亡くなっています」。心不全だった。
 「意味が理解できませんでした。これから一人で隼をどうすればいいのか。不安ばかりが頭を巡りました」
 前日まで普段と変わらない日常だった。夕食を終えて午後8時ごろ隼さんを入浴させ、2人で着替えさせた。午後11時に裕之さんが隼さんを寝かしつけると、美保さんは隣の部屋でテレビをつけたままうたた寝していた。
 「いつも通り。そのうち自分で布団に入り、眠ると思っていた。今も自責の念に駆られます。あの時もっと気にしていれば何か違っていたかもしれない」。死に化粧をした美保さんに何度も声を掛けた。「俺一人じゃ無理だよ」。返事はない。隼さんが20歳になったのを見届け、美保さんは帰らぬ人となった。

 <メモ>合併症 筋強直性ジストロフィーは全身に多様な症状が合併するのが特徴。日中に過剰な眠気(過眠)が起きることが多く、積極性低下などうつ傾向も指摘される。合併症が運動機能症状より先に出現することもある。

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