妊娠を選択できる体作り「プレコンセプションケア」早めに 静岡県内医師ら中高生指導や商品開発
将来の妊娠を考えながら自身の健康に向き合う「プレコンセプションケア」を推進する動きが、静岡県内の病院などで広がっている。不妊に悩む人が増える中、若い世代が早い段階から体について正しく理解し、行動することで、不妊リスクの軽減や健やかな妊娠・出産につなげる。
「将来、妊娠したいよね?」。静岡厚生病院(静岡市葵区)産婦人科の向亜紀医師は中高生の患者にこう尋ね、プレコンセプションケアの考え方に基づいた生活指導を行う。
無月経や生理不順の患者で痩せすぎが原因の場合は、適正体重に戻す重要性を伝えて、将来的に妊娠できる健康な体作りを進める。向医師は「薬を出せば生理は来るが、まず自分の体について知ることもプレコンセプションケアの一環」と話す。
浜松医科大(浜松市東区)名誉教授で、日本周産期・新生児医学会監事の金山尚裕医師は、健康食品製造販売の「ミフリー」(東京都)と連携してプレコンセプションケア向けのプロテイン粉末を開発した。タンパク質など、不足しがちな栄養を補う。
背景には赤ちゃんの平均出生体重低下への危機感がある。厚生労働省の統計によると、平均出生体重は約40年で190グラム減少した。将来の高血圧や肥満、糖尿のリスクが高い低出生体重児(2500グラム未満)の割合は約5%から約10%に増加。女性の「痩せ」や栄養不足が原因の一つとされる。金山医師は「次世代の健康のためにも妊活前から行うプレコンセプションケアは重要」と強調する。
聖隷浜松病院(浜松市中区)リプロダクションセンター長で、生殖医療が専門の今井伸医師は「男性にとっても大事な考え方だ」と指摘する。今井医師によると、男性不妊の一因で、性交渉時に困難を抱える男性の割合は増加傾向という。
思春期の知識不足が原因にあるとみて、今井医師は正しい性知識を身につけてもらおうと中高生向けの教室に力を注いでいる。プレコンセプションケアの普及が進めば「子どもを作ることに関して、自分の思い通りの選択ができやすくなる」と期待を寄せる。
■国も推進 ガイドライン作成へ調査研究
少子化や出産年齢の上昇などを背景に、国もプレコンセプションケアの普及を推進している。2021年2月に閣議決定された「成育医療等の提供に関する施策の総合的な推進に関する基本方針」には、プレコンセプションケアの実施などを通した支援体制の構築が盛り込まれた。厚労省によると、21年度、プレコンセプションケアの体制整備に向けた相談・研修ガイドラインの作成を目指した調査研究が行われている。
<メモ>プレコンセプションケア 「Conception(受胎)」の前から将来の妊娠を考え、女性やカップルが自分たちの生活や健康に向き合うこと。世界保健機関(WHO)は「妊娠前の女性とカップルに、医学的、行動学的、社会的な保健介入を行うこと」と定義し、2012年に本格的に推奨した。