完食指導、なぜ起きる? きゅうけん山口代表に聞いた【給食のいま@しずおか⑥】

山口健太さん
山口健太さん

 「通っていた小中学校では『出されたものは最後まで食べなさい』という原則の下、基本的に残すのは不可でした。無理やりかきこんで、つらかったです」(焼津市、女子高校生)

 給食アンケートに、高校生から体験談が寄せられた。学校の給食指導は学習指導要領などを根拠に行われるが、文部科学省健康教育食育課は食べ残しを禁止する「完食指導」について「推奨していない」との見解を示す。給食アンケートでは現役教員から「無理やり食べさせることはしない」との回答もあった。
 しかし、この高校生の声の他、SNSでも「#完食指導」とハッシュタグを付けた悩みの声が散見される。給食指導の現状とは。なぜ完食指導が起きるのか。教員向けに給食指導の情報を発信する「きゅうけん」(正式名称・月刊給食指導研修資料)の代表で、これまで多くの子どもや保護者の給食の相談に応じてきた山口健太さんに聞いた。
 

相談割合「先生3:子ども3:保護者4」

 

 私自身が学生の頃、野球部の合宿中の食事を食べきれず顧問に怒鳴られたことを引き金に、他の人と食事ができない精神障害の一つ「会食恐怖症」になった。「食べられないことを理解されない辛さ」の体験に基づき、これまで延べ5000件ほど、食べられないことに関する悩み相談を受けてきた。
 完食指導を含む給食に関する相談にも応じていて、多い時には月50件近くあった。子どもからも声が直接届く。一部には「クラスで完食を目指していて、食べきれないと先生に怒られる」「クラスみんなの前で食べられなかったことを謝らなきゃいけない」などの声もあった。
 子どもが食べられないことに悩む保護者の相談にも応じてきた。子どもがなぜ食べられないのかを理解できないことで子育て全般が辛くなることがある。こども園や学校の先生からも「子どもに無理なく残食を減らしたいけれど、良い方法が分からない」「残食を減らさないと、周りの先生から色々言われてしまい給食が苦痛」などの声が寄せられた。あくまで体感だが、相談者の割合は「先生3:子ども3:保護者4」くらい。それぞれの立場で悩みを抱えているようだ。

 

不適切な指導 食への恐怖感招く

 
  一般社団法人「日本会食恐怖症克服支援協会」が2019年11月に行った、会食恐怖症の当事者向けインターネットアンケート調査の設問「会食恐怖症の1番のきっかけ」を元に作成  

 ただ、私自身は完食指導は悪いとは思わない。問題は指導の仕方。A「残さず食べるまで許さない!」と、B「苦手な物は事前に減らしてもOKだから食べてみよう」では全然違う。
 無理やり食べさせる、食べきりの強要、緊張感を与えるー。Aのような指導は、子どもの食べる意欲を低下させ、食事の場面を想像するだけで震えやめまいなどの体調不良が生じる「会食恐怖症」を引き起こすこともある。日本会食恐怖症克服支援協会が2019年に行った調査では、会食恐怖症の1番のきっかけは「完食指導や周りからの強要」で、その具体的な場面は「給食で先生から」が最多という結果が出た。

 

先生が給食指導を学べる機会を

 
  上の「会食恐怖症の1番のきっかけ」を尋ねた問いで「完食指導や周りからの強要」と答えた人を対象に、具体的な場面を尋ねた回答を元に作成  

 こうした子どもが苦しくなってしまうような完食指導が起きる背景には、先生が給食指導を学ぶ機会が乏しく、自分の経験をベースにした指導をしている状況があると考える。公立学校教員に給食指導で参考にしていることを尋ねたところ、「自分自身が家庭で受けた教育」「自分自身が小学校の時に受けた給食指導」が上位を占めたという調査もある。
 また文部科学省が発行する「食に関する指導の手引」がクラス担任にまで浸透しきっていないことも課題だ。食事量が極端に少ない子どもに対して「まず苦手な食品の匂いをかぐだけ」「ごく少量食べてみる」など、個別指導のやり方が具体的にまとまっている。これを一読するだけでも、給食指導の参考になるはずだ。きゅうけんのホームページでは「クラスに約4人も?給食が苦手な子の心の声」「給食をあまり食べない子の栄養は大丈夫?」など、さまざまな悩みに対する資料を無料で公開している。こちらも活用してほしい。




<メモ>きゅうけん(月刊給食指導研修資料) 「食べられないことはわがままではなく、その人なりの理由があり、適切な支援もある」という考えに基づき、子どもの食の悩み事やその支援方法をまとめた資料を作り、ホームページやメールマガジンなどで無料で情報発信している。編集メンバーは、会食恐怖症の当事者のほか、栄養士、保育士、心理カウンセラーなど。株式会社日本教育資料が運営している。有料で研修や講演も行っていて、毎月依頼があるという。

 

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