女優・渡辺梓さん 「無名塾」退団、フリーの立場で「本当の自分探し」 富士宮出身、都内公演で再出発
富士宮市出身の女優渡辺梓さん(52)が、長年在籍した俳優養成所「無名塾」を退団し、新たな道を歩み出した。自身の生き方を見つめ直した末の決断。「人生の後半戦。ゼロに戻り、自分の本当にやりたいことを探したい」と、フリーの立場で表現活動を続ける。

12月中旬。東京都武蔵野市のアトリエ戯曲組で、髪を短くした渡辺さんが稽古に励む姿があった。「自分の意思で髪形を変えられる。自由になり、思い切りもよくなった」。自転車で転倒し、額に負った傷痕も隠さない。ありのままの自分を受け入れ、22日から始まる公演の役作りに生かした。
渡辺さんは1987年に無名塾入り。89年にNHKの連続テレビ小説「和っこの金メダル」でデビューし、映画や舞台などで活躍してきた。女優を続けながら、認知症の義母の介護を経験。身近な知人の死も重なり、生と死について考えさせられた。子育ても一段落し「本当にやりたいことは何か」を考え、「守られた場所」だった無名塾を離れた。
現在は「不条理な世界観が好き」と評する脚本家で女優の吉村元希さんが主宰する「戯曲組」の公演に参加する。22~26日に披露する「エアスイミング」は、理不尽な拘束を受けた女性2人を描いた「胸が苦しくなるほど悲しくて重たい作品」(吉村さん)だ。ただ、渡辺さんは絶望の中でわずかな光を見つけて生きる女性に「どこか救いがあった」とし、「力強さも感じ、演じたかった」と意欲を語る。
主人公の女性が置かれた状況は、新型コロナウイルス禍の閉塞(へいそく)感に苦しむ人々とも重なる。「社会や家族との関係に縛られながら生きる人を応援するせりふが作品の中にちりばめられている。その言葉を観客に届けたい」。目まぐるしく変化する演劇の世界で、必死に生きてきた女優としての現在地を見せるつもりだ。