指導役の国交省会議 肝心な議論不十分の声【大井川とリニア 第8章 流域の理解は得られるか④】

 JR東海が今後、説明のベースにすると言っている大井川水利用に関する国土交通省専門家会議の中間報告。昨年4月に設置された会議は「トンネル湧水の全量の表流水への戻し方」と「中下流域の地下水への影響」を中心に議論してきた。今年9月の第12回会合では中間報告案が議論され、福岡捷二座長(中央大教授)が次回会合で取りまとめる方針を表明した。

1年8カ月にわたり議論が続いている国土交通省の専門家会議=9月、東京都内
1年8カ月にわたり議論が続いている国土交通省の専門家会議=9月、東京都内
国土交通省専門家会議で議論が不十分な主な論点※取材に基づく
国土交通省専門家会議で議論が不十分な主な論点※取材に基づく
1年8カ月にわたり議論が続いている国土交通省の専門家会議=9月、東京都内
国土交通省専門家会議で議論が不十分な主な論点※取材に基づく

 1年8カ月にわたる協議では、上流域で地下水位が300メートル以上低下する予測図がJRから提出された。JRが非公表にしてきた地質調査会社の資料の一部や、水量減少・水質悪化の想定パターンが示され、推定したトンネル湧水量の不確実性が明確になるなど、同会議は一定の成果を上げた。難波喬司副知事は「JRとの対話に必要な資料や科学的根拠は相当明確になった」と評価する。
 ただ、利水者が懸念する大井川とトンネルが交差する地点の地質の議論は深掘りされなかった。流域の一部に解決案として期待する声がある東京電力田代ダムの取水量調整は議論の俎上(そじょう)に載せず、「トンネル湧水の全量戻し」の具体的方法は提示しないまま、水利用の議論を終えようとしている。
 会議では水量の問題に時間を割き、水質の議論は限定的だった。トンネル残土から有害な重金属が出た場合の処理方法は県側の要請に応じていない。流域7市に水道水を供給する大井川広域水道企業団の秋山雅幸企業長は「残土を水源に置いて長期的に大丈夫か。残土から放射能を含むウランなどが出たら、どうするのか。人の口に入る水なので、水質悪化は万が一でもあっては困る」と懸念する。
 さらに、現時点の中間報告案は事務局の同省鉄道局が主導して作っていて会議内容と食い違う部分もある。
 中間報告案は「いずれの段階においてもトンネル湧水量の全量を大井川に戻すことで中下流域の河川流量は維持される」としたが、JR担当者は会議で、トンネル湧水の県外流出時以外にも地質が想定と異なる場合や大規模災害による停電などの際に「一時的に中下流域の水量が減少する可能性がある」と説明済み。中間報告案に「万が一、不測の事態が発生してしまった際の水量・水質への影響発生の可能性」とある記載は、どの程度の可能性なのか会議は結論を出していない。
 県会議の専門部会長と国交省会議の委員を兼務する森下祐一静岡大客員教授は取材に、国交省会議の意義を認めながらも「JRへの指導が目的で、肝心な部分の実質的議論は進んでいない。県の会議で対応するしかない」と中間報告後も科学的議論は継続すると強調する。差し戻される県の会議でJRは国交省会議の指導の成果を示せるだろうか。
 (「大井川とリニア」取材班)

 <メモ>国土交通省の専門家会議 県とJR東海の対話が進まなくなったために設置された。科学的、工学的な観点からJRに指導、助言する。指導、助言を受け入れて説明を改めるかどうかはJRの判断になる。委員は水文学やトンネル工学の専門家ら7人で、このうち2人は県有識者会議の委員。中間報告後、上流域の水量減少や水質悪化が自然環境に与える影響も議論する。

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