動き出す沼津鉄道高架 住民の思いは… まちづくりの方向性は…

 JR沼津駅付近鉄道高架事業は、沼津市原地区の新貨物ターミナル移転用地の収用を終え、本格的に動き出す。構想から30年余り。社会状況が変わる中、元地権者ら地元住民の思いやまちづくりの方向性を探る。

明け渡し未完了の移転用地に立てられた「貨物駅断固阻止」の看板。行政代執行によって撤去された=19日午前、沼津市
明け渡し未完了の移転用地に立てられた「貨物駅断固阻止」の看板。行政代執行によって撤去された=19日午前、沼津市
鉄道高架化が予定されているJR沼津駅周辺。南北市街地の一体化や交通渋滞の解消などが期待されている=20日午前、静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から
鉄道高架化が予定されているJR沼津駅周辺。南北市街地の一体化や交通渋滞の解消などが期待されている=20日午前、静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から
明け渡し未完了の移転用地に立てられた「貨物駅断固阻止」の看板。行政代執行によって撤去された=19日午前、沼津市
鉄道高架化が予定されているJR沼津駅周辺。南北市街地の一体化や交通渋滞の解消などが期待されている=20日午前、静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から


 ■市民分断、翻弄の30年
 JR沼津駅付近鉄道高架事業に伴う新貨物ターミナル移転用地収用を巡り、県は19日、行政代執行を実施した。「故郷を破壊するな」「強制執行に抗議する」―。県職員らが作業を進める中、事業に反対する元地権者や市民は訴えを書いたカードを首に掛けたまま無言で怒りの姿勢を示した。唯一、明け渡しに応じなかった元地権者の久保田豊さん(81)は現場に姿を見せなかった。市民を翻弄(ほんろう)、分断し続けた事業を巡る争いは、行政による土地の強制収用で決着し、双方に痛みを残した。
 対象地は久保田さんが親から受け継いだ農地1435平方メートル。市が土地の権利を取得した昨年6月以降も補償金の受け取りを拒否した。収用直前の17日も「自分の土地を守る。将来世代に借金を残しかねない事業自体にも反対」との姿勢を貫いた。
 地元自治会に貨物駅の移転計画が伝えられたのは1990年代初め。地権者を中心に反対運動が巻き起こった。土地を渡したくない思い、生活環境変化への懸念、事業効果自体の疑問―。さまざまな声が上がった。2005年には、事業の是非を問う住民投票条例制定を求めて約6万人が署名(市議会で否決)。06年には当時の市長に対するリコール運動が展開され市民を推進、反対で二分した。
 「残ったのは挫折感と政治不信」。かつて反対運動の中心にいた長興寺住職松下宗柏さんは、川勝平太知事の発言が関係者を混乱させたと指摘する。川勝知事は初当選翌年の10年、強制収用は避けると明言し、事業を一時凍結した。しかし14年、一転して新貨物駅整備を表明。松下さんは「迷走した揚げ句、180度転換した」と批判する。
 同事業は新たなステージに進む。新貨物駅移転先の自治会でつくる三区JR貨物駅対策協議会の鈴木正祥顧問は「原地区の負担なくしてここまで来られなかった。市はそのことを忘れないで」と訴える。02年に周辺整備に関する18項目の地元要望を市に提出。今後、進捗(しんちょく)状況を住民に説明すべきだと考えている。「頼重秀一市長は目指す都市像に『人・まち・自然が調和し、躍動するまち』を掲げている。原地区でも実現してみせて」と切望した。
 
 ■中心市街地再生へ期待
 「まちづくりの顔となる事業。機会をしっかりと捉え、地域発展につなげる」。JR沼津駅付近鉄道高架事業に伴う新貨物ターミナル整備を巡り、全ての移転用地収用が完了した19日。沼津市の頼重秀一市長は市の活力再生へ強い決意を口にした。県東部の“商都”と呼ばれたかつての活気を取り戻せるのか―。事業が動くことで、市民の関心は今後のまちづくりに移る。
 構想浮上から30年以上が経過し、同市を取り巻く環境は大きく変わった。人口は2015年に20万人を割り、駅周辺の大型商業施設の撤退が相次いだ。ここ数年の公示地価では、商業地の市町別最高価格地点(同市大手町)順位が隣接の三島市を下回っている。
 衰退が目立つ中、鉄道高架を含む6事業で構成する沼津駅周辺総合整備事業は、中心市街地再生への切り札として期待されてきた。高架事業で南北市街地の一体化や鉄道跡地を利活用し、中心市街地を大きく造り変える。駅南の沼津仲見世商店街で紳士服店を営む渡井篤紀さん(60)は「鉄道高架はゴールではなく、まちを総合的に発展させるためのきっかけ。効果的な開発を行うことが大切」と事業の進展を注視する。
 市は昨年度、総合整備事業が完了する20年先を見据えた「中心市街地まちづくり戦略」を策定し、駅周辺を「ヒト中心の空間に再編する」とのビジョンを打ち出した。鉄道高架で生じる車両基地(2~3ヘクタール)と貨物駅(2ヘクタール)の跡地、高架下(4・7ヘクタール)の用途についても初めて活用法を提示し、市役所や医療機関、商業施設などを候補に挙げた。貨物駅跡地には防災公園などの整備を検討し、どのような機能が導入可能か事例調査を進めている。
 市民にとって「生み出された空間に何ができるか」は大きな関心事だ。ニーズを見極め、早期に具体像を示すことが期待感の高揚につながる。
 長い空白期間を経て前進した、787億円を投じる巨大事業。頼重市長はSDGs(持続可能な開発目標)やスマートシティー、アフターコロナなど、まちづくりを進めるための最新のキーワードに注目する。「最前線の取り組みを実行するチャンスを得た」。時流を捉えたまちづくりに挑戦する姿勢を強調してみせた。

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