「聖域」教育研究費、守れるか 電気代高騰で大学苦境
止まらない電気代高騰が各地の大学の運営に影を落としている。国からの交付金が収入の中心である国立大も懐事情は苦しく、節電や経費削減に力を入れて「聖域」とされる教育研究費への影響を防ごうと懸命だ。冷房が欠かせない夏が本番を迎え、財政支援を求める声が強まる。

「研究機器の更新はまたの機会に」。電気通信大(東京)のある研究室では、学生同士のこんな会話が増えたという。国の交付金が増えず大学予算に余裕がないのに加え、電気代高騰で設備購入がさらに難しくなったためだ。空気の流れを測る装置に不便さを感じている大学院2年の福山英雄さん(24)は「旧式だと計算効率が落ちてしまう」と声を落とす。
電通大によると、2021年度の電気代は約2億2千万円。22年度は使用量が微減だったにもかかわらず代金は倍近い4億円ほどに跳ね上がった。電力会社側との折衝で料金が決まっており、家庭向けより値上がり幅は大きくなった。
電通大は、研究棟ごとに「19年度使用量比で2・5%以上削減」の目標を立て節電に努めている。三浦和幸理事は「研究費への影響は避けたいが厳しい状況だ」と語る。
22年度の電気代が前年度の2倍(約41億円)に膨れたという名古屋大。契約していた新電力の供給会社の破綻も影響した。対策として、スーパーコンピューター「不老」の稼働を一部止め、複数の実験室を閉鎖して他の実験室に集約。冷暖房費がかさむ8月と2月の授業を減らし、温暖な時期の土曜授業を増やした。
杉山直・名大学長は「節電策は乾いた雑巾を絞っているようなもの。それでも世界トップレベルの研究の質は落とせない」と強調する。
室蘭工業大(北海道)は今夏、地の利を生かした節電策に着手。夜間の冷えた外気を教室に取り入れて昼頃まで温度を保つ装置「ナイトパージ」を導入した。それでも本年度から研究費を削っており、佐藤孝紀副学長は「聖域には踏み込みたくなかったが苦肉の策だ」と明かす。
東京芸術大は4月に「電気代を稼ぐコンサート」を開催した。客員教授を務める歌手さだまさしさんの発案で、さださん自身も出演。入場料収益を電気代に充てる。
文部科学省は22年度補正予算で国立大の電気代支援に約100億円を計上するなどしてきた。国立大学協会の永田恭介会長は「無理な経営効率化を行えば研究力低下や施設老朽化で取り返しがつかない。さらなる国の支援が必要だ」と訴える。