LGBT法案 「文言後退」当事者反発 合意修正案、保守系に配慮【大型サイド】
LGBTなど性的少数者に対する理解増進法案について、自公両党が修正案の国会提出で合意した。先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)開幕までの駆け込み提出を急いだ与党が、自民保守系の主張に配慮する形で「性自認」の文言などを変えた。差別に苦しむ当事者らは「大きな後退」と反発、識者も修正の必要性を疑問視する。
「(与党内で)議論すればするほど法案の内容は後退していった。与党はサミット前にポーズを見せているだけだ。当事者が守られる法律をつくってほしい」。当事者や支援者が16日、国会内で開いた緊急集会では、修正案への批判が相次いだ。
修正されたのは「差別は許されない」との文言。定義があいまいなままで禁止規定と取れる文言があると差別を訴える裁判が頻発し、社会の分断を招く―との自民保守系の声を尊重し「不当な差別はあってはならない」に差し替えられた。
自分の認識する性である「性自認」の文言も「性同一性」に変更。英訳ではどちらもジェンダー・アイデンティティーだというが、「性同一性」は心と体の性が一致しない障害名として用いられている。女性を自認する男性が、女子トイレや女湯に侵入するような事例が頻発し、トラブルになりかねないとの懸念を踏まえた対応だ。
こうした内容に当事者らは一斉に反発。「LGBT法連合会」事務局長の神谷悠一さん(37)は「性的少数者は、性同一性障害と病院で診断されている人だけではない。『性同一性』との表現では、法案の対象は限定されるとの誤解を招く」。
「東京都にパートナーシップ制度を求める会」代表の山本そよかさん(38)は「不当な差別」とした修正に憤る。「『不当』と付くことで範囲が限定され、不当でない差別は問題ないとも読まれかねない」と訴える。
ジェンダー法学が専門の追手門学院大三成美保教授も、法案を修正する必要性には懐疑的だ。
「『性自認』という言葉は、国の政策でも研究者の著作でも広く使用され、社会に浸透している。本人の個人的な感覚を尊重するとの意味で使われており、あえて『性同一性』を使うなら必要性を示すべきだ」と指摘する。保守系が恐れる訴訟頻発リスクに関しても「理解増進法のような理念法の文言を直接の根拠にして訴訟が起こされることは考えにくい」と話す。
ただ、法案が動き出したことは評価し、「修正で大きく後退したとはいえ、サミットなどの外圧がなければ、この法案すら難しいのが日本の現状だ。問題は多くても新法ができることに意味はある」と強調。「最初の一歩として法案を成立させ、将来の改正で内容を充実させていくこともできるはずだ」と語った。