深い傷、修復し別れ 熟練の納棺師、亡き人思い 年百体「会って触れて」【スクランブル】

 事件や事故で深い傷を負った遺体を特殊な技術で修復し、遺族との対面を実現させる納棺師たちがいる。「大切な人に会って触れて、お別れしてほしい」との思いを胸に、特別なワックスを用い、熟練の技術で年間約100体に処置を施す。現場を取材した。

遺体を修復する「統美」の角田智恵美さん(左)と染谷幸宏社長=東京都足立区
遺体を修復する「統美」の角田智恵美さん(左)と染谷幸宏社長=東京都足立区
遺体を修復する「統美」の角田智恵美さん=東京都足立区
遺体を修復する「統美」の角田智恵美さん=東京都足立区
遺体の修復に使うワックス=東京都足立区
遺体の修復に使うワックス=東京都足立区
修復を受けた遺体の記録(統美提供)
修復を受けた遺体の記録(統美提供)
納棺師の主な仕事
納棺師の主な仕事
遺体を修復する「統美」の角田智恵美さん(左)と染谷幸宏社長=東京都足立区
遺体を修復する「統美」の角田智恵美さん=東京都足立区
遺体の修復に使うワックス=東京都足立区
修復を受けた遺体の記録(統美提供)
納棺師の主な仕事

 遺体修復を手がける会社「統美」(東京)の処置室。室温が12~13度に保たれた清潔な空間に3月、遺族らが修復を望んだ男女4人の遺体があった。電車事故、飛び降り自殺、孤独死と状態はさまざま。「絶対に元に戻してあげるからね」。職歴約26年の納棺師角田智恵美さん(56)は一人一人に約束した。
 死後約1カ月の80代女性には、乾燥してこけた顔にワックスを塗り重ね、ほおの膨らみをつくっていく。「ここにほくろがあるね」。柔らかな笑みを浮かべる生前の写真と見比べながら、会話するように語りかける。
 他の遺体も傷を接着剤でふさいだり、へこんだ額や鼻の形を綿で戻したりした。髪を整えて化粧をし、処置を終えると、いずれの男女も穏やかな表情になった。
 映画「おくりびと」(2008年)で注目された納棺師は、体を洗い清める湯灌や化粧が主な仕事とされる。統美はそれにとどまらず、激しい損傷を修復できるのが特長。東京、埼玉、千葉、神奈川で亡くなった人の遺族から葬儀会社を通じて依頼が相次ぐ。
 統美の納棺師で最もベテランが角田さん。パート従業員だった29歳の時、求人広告で納棺の仕事を見つけ、「正社員になりたい」との思いから転職した。
 「どんな状態の遺体でも修復する」。心に決めたきっかけは数年前の殺人事件だ。被害者の女性は体が大きく欠損して死後長期間たち、生前の面影を残していなかった。
 2日間、一心不乱に向き合った。遺族とは直接会わなかったが、都内で遺体を返した際、カーテンの向こうから「あの子だ」という声が聞こえ、涙があふれた。「顔を見て別れを言うことで後悔を残さずに済む。今は悲しくても、いつか前を向いて歩ける時が来る」。この仕事の重要性に改めて気付いた。
 統美によると、納棺師には公的な資格制度や統一的な技術基準はない。遺族との窓口になる葬儀会社の理解度もまちまちで、修復できる遺体が見過ごされている恐れも。同社は現状を改善しようと、業者同士の連携や技術の確立、後継の育成を目指している。
 染谷幸宏社長(56)は、納棺師をより身近な存在にし、亡くなった人に感謝を伝える場を増やしたいと願う。「愛する人を送り、いつかは自分も送られる。その営みの繰り返しを、ぬくもりが感じられるものにしたい」

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