医療的ケア児と家族―宮崎「輪を広げる」 加盟社・共同通信合同企画「越えるディスタンス~明日へつなぐ」

育ちを支え、孤立させない 共に働く、地域共生の拠点

隣の部屋で働きながら、放課後等デイサービスで過ごす松本里珈さん(手前)の様子を見に来た母親の美里さん(左)=1月、宮崎市
隣の部屋で働きながら、放課後等デイサービスで過ごす松本里珈さん(手前)の様子を見に来た母親の美里さん(左)=1月、宮崎市
リップルで着物リメークの作業をする松本美里さん(左)と愛甲晃子さん=1月、宮崎市
リップルで着物リメークの作業をする松本美里さん(左)と愛甲晃子さん=1月、宮崎市
自身が立ち上げた医療的ケア児とその親の居場所「リップル」で、長女の愛甲花菜さん(右)と過ごす晃子さん=1月、宮崎市
自身が立ち上げた医療的ケア児とその親の居場所「リップル」で、長女の愛甲花菜さん(右)と過ごす晃子さん=1月、宮崎市
着物リメークの仕事を生かして、医療的ケア児とその親の居場所「リップル」を立ち上げた愛甲晃子さん=1月、宮崎市
着物リメークの仕事を生かして、医療的ケア児とその親の居場所「リップル」を立ち上げた愛甲晃子さん=1月、宮崎市
徳留亜弥記者
徳留亜弥記者
隣の部屋で働きながら、放課後等デイサービスで過ごす松本里珈さん(手前)の様子を見に来た母親の美里さん(左)=1月、宮崎市
リップルで着物リメークの作業をする松本美里さん(左)と愛甲晃子さん=1月、宮崎市
自身が立ち上げた医療的ケア児とその親の居場所「リップル」で、長女の愛甲花菜さん(右)と過ごす晃子さん=1月、宮崎市
着物リメークの仕事を生かして、医療的ケア児とその親の居場所「リップル」を立ち上げた愛甲晃子さん=1月、宮崎市
徳留亜弥記者

 人工呼吸器の管理などが24時間必要な「医療的ケア児」と、働くことが難しい母親を支援したい―。自らも医療的ケアが必要な娘を持つ愛甲晃子(あいこう・あきこ)さん(54)=宮崎市=は、重症心身障害児の療育などを行う多機能型事業所と、その母親らが仕事をしながら交流するワークコミュニティーを備えた複合施設「RIPPLE(リップル)」を、昨年12月から同市で運営する。
 「同じような施設は、県内だけでなく全国でもほとんど見当たらない。だからこそつくりたかった」と愛甲さんは話す。
 多機能型事業所「Peace(ピース)」では0歳~未就学児の療育と、6~18歳の放課後等デイサービスを提供。訪問看護ステーションと連携し看護師や保育士がケアに当たる。隣部屋のワークコミュニティーでは、母親たちが都合の良い時間に、着物リメークや菓子のラッピングなどをして働き、現在は母親3人が利用する。
 松本美里(まつもと・みさと)さん(48)=同市=は「新型コロナウイルス禍で引きこもりがちだったが、リップルにつながり救われた」。長女の里珈(りか)さん(12)は低酸素性虚血性脳症などにより、たんの吸引や人工呼吸器、胃ろうが必要で外での仕事を断念した。「働きながら同じ境遇の親と語り合う時間は楽しく、情報交換もできる。娘の様子を窓越しに確認できて安心」と喜ぶ。
 設立者の愛甲さんも、社会からの孤立を経験した。長女の花菜(かな)さん(20)は生後5カ月で人工呼吸器が必要になり、1歳で筋力低下などの難病「先天性ミオパチー」と診断された。在宅ケアに加え、学校にも同行し別室で待機する日々で「自由な時間がない」と仕事を諦めた。
 2009年、ケア児の親の会を他の母親らと設立。その後、着物リメークの教室に通い、長女のために学校で待機する時間にもミシンを持ち込んで技術を磨き、18年に着物リメークで起業した。ケア児の母親と一緒に働く場をつくろうと、一般社団法人リップルの設立に向け動き始めたが、20年に新型コロナ感染症が世界的に流行。感染を防ぐため、親たちが学校で一緒に待機することができなくなり、親の会など全ての活動が中断した。しかし「コロナ禍で分断された今こそ拠点が必要」(愛甲さん)と奮起し、同法人を昨年設立した。
 「リップルを多くの人とつながり、支え合う場にしたい」と願い、母親以外の利用も歓迎する愛甲さん。医療的ケア児とその家族が地域で共生できる社会を目指して、仲間と一歩ずつ進んでいる。(宮崎日日新聞社)
実態に合う支援拡充を
 医療的ケア児をみるスタッフの元気な声や、働く母親たちの笑い声が響くリップルには優しい時間が流れていた。愛甲さんが開設を決めたのは「ケア児とその家族への支援も社会全体で支える」とする医療的ケア児支援法の施行も大きかったという。「ポストコロナ」で社会活動の再開が本格化する中、当事者や家族が置き去りとならないよう、実態に合った支援の拡充が求められている。(徳留亜弥(とくどめ・あや)・宮崎日日新聞記者)
重い家族負担、課題山積 保育・学校で受け入れ不足
 医療的ケア児を育てる家族の負担は重い。国は2021年にケア児支援法を定め、保育所など受け入れ先や相談拠点の整備に努める。看護師確保といった課題は山積だ。
 国が19年度、ケア児家族への調査で悩みを複数回答で聞くと「慢性的な睡眠不足」に「当てはまる」「まあ当てはまる」が計71・1%で最多となり「いつまで続くか分からない日々に不安を感じる」が同70・4%と続いた。
 子どものそばからひとときも離れられないなどの悩みを持つ人に対し、必要な支援を問うと「日中の預かり」(69・7%、複数回答)がトップ。
 政府は保育所や学校に財政支援する。ケア児を預かる認可保育施設は15年度の260カ所から、20年度は526カ所に倍増した。しかし認可保育施設全体の1%強にとどまる。
 特別支援学校や幼稚園、小中高校にいる看護師らは21年度で9241人。親がケア児に付き添うケースは幼稚園や小中高校で66・0%、特別支援学校で51・9%に上り、現状では親の就労の障壁となっている。
 企業が主に社員向けに設ける認可外の「企業主導型保育所」でもケア児を受け入れられるよう、政府は23年度予算案で看護師を雇う際の補助金制度の新設を盛り込んだ。(共同通信社)
医療的ケア児
 日常的にたんの吸引や人工呼吸器などが必要な子ども。厚生労働省推計では、2021年度に全国で約2万人いる。医療の発達で、これまで救えなかった命を救えるようになり、増加傾向にある。ケア児支援法は都道府県に対し、家族の相談にワンストップで応じる支援センター設置を要請。大半が設けた。

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 この記事は全国の地方新聞社と共同通信が協力して制作し、新聞向けには2月22日以降使用の想定で配信しました。ご意見やご感想を共同通信「越えるディスタンス~明日へつなぐ」係までお寄せください。ファクスは03(6252)8238、電子メールはdistance@kyodonews.jpです。

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