政治学者の佐々木雄一さん 国際政治と外交のリアリズムを描く【多士才々】
「力がものを言う世界でありながら、規範もある。国際政治や外交とはそういうものです」。政治学者で明治学院大准教授の佐々木雄一さんは新著「近代日本外交史」で、「力が支配する」国際社会の本質と、その中で「規範を重視する」外交のリアリズムを描いた。

ペリー来航から敗戦に至る日本の対外政策の歴史を概観。「なぜ日本は太平洋戦争に向かったのか。その問いに答えるには、それ以前の歴史から見なくてはならない」と強調する。
意識したのは、「ミクロとマクロ」両方の視点を持つことだという。「日露戦争の前、構造的に日本とロシアは戦う運命にあった。そういった全体像がありつつも、指導者の個性も影響した。もし対露戦に慎重な伊藤博文が当時の首相だったら、戦争は起きていなかったかもしれません」
1931年の満州事変から日本の「対外膨張」が加速したとする一般的なイメージにも、疑問を呈する。「それ以前にも日本は膨張を続け、戦争を繰り返していた」。ただ、第1次世界大戦までの戦争を外交担当者が「国際規範」を意識しながら主導してきたのに対し、それ以後は、軍部の台頭や好戦的な世論の高まりなどの影響で国内政治の意思決定プロセスが変質したと指摘する。
「国内状況と指導者の決定の関係を考えるのが大切。現代においても、言論空間の中で力強い中庸をどう育てていくのかが問題だと思っています」
扱うテーマから歴史学者と思われることが多いが、アイデンティティーは政治学者だときっぱり話す。「国内の政策決定過程におけるリーダーシップや言説の影響というのが元々の関心。たまたま外交を材料にした結果、それが専門になってしまいました」と笑った。