保育所や幼稚園に通わない「無園児」、その親が追い詰められると虐待リスクが高まる? 過去の重大事案を分析、親子の孤立を防ぐ方法を探った

 保育所や幼稚園に通わない0~5歳児の子育てを巡り、親が悩みを抱え込み孤立してしまうケースが問題となっている。未就園の子どもは、支援がない(無援)、周囲とのつながりが乏しい(無縁)との意味を含め「無園児」とも呼ばれる。家庭での養育を選ぶ親も多く、子育てに問題を抱えるケースばかりではないものの、交流や支援がなく育児負担が増えれば虐待のリスクは高まりかねない。共同通信が、過去15年間に全国で発生した児童虐待231件の自治体検証報告書を分析した結果、子どもが保育所や幼稚園に通っておらず、親子の孤立が虐待の背景となったケースが2割に上ることが分かった。無園児と親を置き去りにしないためにはどうしたらいいのか。(共同通信生活報道部「無園児」問題取材班)

自治体の検証報告書
自治体の検証報告書
虐待事案に占める「無園児」の割合
虐待事案に占める「無園児」の割合
伊奈町が実施しているアンケート
伊奈町が実施しているアンケート
家事や育児の訪問支援をするNPO法人「バディチーム」の岡田妙子代表
家事や育児の訪問支援をするNPO法人「バディチーム」の岡田妙子代表
自治体の検証報告書
虐待事案に占める「無園児」の割合
伊奈町が実施しているアンケート
家事や育児の訪問支援をするNPO法人「バディチーム」の岡田妙子代表

 3歳児健診後は町との接点が途絶え、母親は虐待をエスカレート
 2017年12月、4歳の岩井心ちゃんが埼玉県伊奈町の自宅で低体温症により死亡した。お漏らしを親にとがめられ、下半身裸のまま約1時間掃除をさせられた。入浴後も「寒い、寒い」と訴え、リビングで横になったまま意識を失った。両親が逮捕され、さいたま地裁で保護責任者遺棄致死罪により懲役7年の実刑が確定した。
 事件の経緯をたどると、子育てに行き詰まった母親が、必要な助言も得られないまま孤立し、虐待をエスカレートさせた実態が浮かんだ。
 伊奈町の検証報告書によると、心ちゃんは二つ年上の兄と両親の4人家族。16年2月に伊奈町に引っ越してきた。心ちゃんは無園児だった。最初の異変は16年7月。雨の中、Tシャツ1枚で庭にいる心ちゃんを住民が見つけ、町に通報した。母親は町職員に、心ちゃんがトイレがうまくいかず「謝らないので外に出した」と説明した。その後の面談で「娘をたたくことがある。2人の育児にストレスがある」と漏らしたのに対して、町の対応は子育て支援センターの紹介のみにとどまった。17年2月の町による3歳児健診で異常は見つからなかった。健診は、小学校入学前の5歳児で受ける時までなく、町との接点は途絶えた。
 事件の裁判では、母親は何らかの子育て相談の窓口を訪れたものの、トイレトレーニングの資料を渡されただけで、周囲に相談しても「子どもはそういうもの」と言われるばかりだったことが明らかになっている。
 心ちゃんが亡くなる1カ月前の11月、おもらしが頻繁になり、両親はあざが残るほど暴行した。12月には、心ちゃんはスプーンで1~2口しか食べられないほどに衰弱。両親は股間を拭こうと無理やり脚を開くなどして筋断裂のけがも負わせていた。体のあざがばれることを恐れたなどの理由で病院には行かなかった。母親はそのころ、第3子を妊娠し、夜中に近所を歩き回るなど情緒不安定にもなっていた。
 親は、心ちゃんについて兄と同様、幼稚園の年中クラスに18年4月から通わせることにしていた。家族以外で誰も虐待に気付くことはなかった。
 埼玉県が22年11月に公表した検証報告書は「集団に属さない子どもの効果的な見守り方法の検討」を提言。おもらしについては、医学的な対応が必要だった可能性が高いとし「適切な機関につなぐことができ疾患が解消されていれば、死亡に至るまでの結果にはならなかったのではないか」との見解を示した。
 行政の連携不足や定員に空きがなく保育所に入れない
 重大な児童虐待について、法律は自治体に対して2008年度から検証するよう規定した。共同通信は、心ちゃんの事件を含め22年10月までの15年間に全国で公表された231件の自治体検証報告書を分析した。
 231件のうち、保育所や幼稚園に通っていなかったとみられる子どもは6割超の152人。また、231件の約2割に当たる43件では、事案の経過や再発防止に向けた提言で「(どこにも)所属していない乳幼児は行政のサポートが届かないことが多い」などと無園児と虐待との関連性を指摘していた。43件について年齢でみると、家庭で育てられる子どもの多い0~2歳が24件に上った一方、国の幼児教育・保育の無償化で、幼稚園や保育所などに通う子ども全員の利用料が無料となる3~5歳も17件あった。不明は2件だった。
 具体的な事例を見てみよう。14年3月に滋賀県大津市で1歳の女児が死亡する事案が発生した。暴行した母親は、近くに頼れる人が乏しく産後の精神的不調からパニックになるといった状況にあった。市などが支援に入ったものの、虐待は防げなかった。報告書は「保育所利用が認められず、育児不安を高じさせ、虐待が深刻化した可能性がある」「早期に保育所入所につなげられなかったか」と指摘した。
 母親の暴行で3人兄弟の末子の女児(生後9カ月)が死亡した大阪市の事案。家族はワンルームで生活し、母親が保健師に「保育所に入れて働きたい」と訴えていたのに対し、保健師は申し込みを勧めるだけで、担当課につなぐといった対応はしなかった。
 豊田市で生後11カ月の三つ子のうち、一人が死亡した事案では、母親からの相談に対し、市は年度途中で3人そろって保育所に入るのは難しいとして保留にしていた。報告書は「多胎児は育児の負担が大きい」として、保育所の利用希望者の調整をする際の対応策を検討するよう求めた。
 保育所などに通わせるかどうかは保護者の判断によるとはいえ、なぜ、育児が難しくなっている家庭の子どもが支援を得られず、孤立してしまうのか。0~2歳児では、保育所などに入れる場合、就労や保護者の病気といった条件がある。さらに、入所希望の多い自治体では調整の際にフルタイムで働く親などが優先され、希望しても入れないことがある。他にも、保育料が払えなかったり、子どもに障害があって受け入れを拒否されたりといった理由で通えないことがある。親が望んでも、行政の連携不足や、保育所の空き状況などさまざまな壁に阻まれて孤立を深めたケースも目立つのが実情だ。
 行政、国の動きは
 支援に乗り出す自治体も出てきている。大阪府高槻市は21年度から未就園世帯への家庭訪問を始めた。きっかけは新型コロナウイルス禍で外出が自粛された際、子育てに行き詰まる親からの相談が増えたことだ。親子が孤立すれば、虐待リスクが高まると判断し、21年度は3~5歳の約360世帯を訪れた。担当者は、「転勤してきたばかりでどこに出かけて良いか分からない、頼る先が分からないという声があった。虐待リスクが高い世帯より手前の、今までアプローチできていなかった世帯と関わることができた」と手応えを話す。
 心ちゃんの事件を契機に埼玉県伊奈町でも、サポートが必要かどうかを把握するため、21年度から未就園の家庭にアンケートを送った上で、民生委員らが絵本などを持って訪れ、様子を聞く取り組みを進めている。アンケ-トには、実際に「就労していないために保育園に入れたくても入れられない」といった意見が寄せられた。
 4月に発足するこども家庭庁は、未就園の子や親の支援を重要政策に位置付け、先進自治体の取り組み例を参考に、家庭訪問や困り事の把握といった本格的な施策づくりに乗り出す。保育所での一時預かりなどの支援策も充実させる方針だ。
 つながりを作る拠点に
 支援に携わる現場からは、丁寧なアプローチを求める声が上がる。家事や育児の訪問支援をするNPO法人「バディチーム」(東京)の岡田妙子(おかだ・たえこ)代表は、子育てが難しくなっている家庭では、親が行政への不信感や他人に頼ることへの抵抗感から入園を拒んだり、病気などで手続きができなかったりするケースが少なくないと指摘する。バディチームが支援した例では、入園を拒んでいた親に家事や育児の手伝いで訪問を重ね、親がサポートを受けることに前向きになり、保育所に入ることになったという。親の体調不良で通園が途絶えがちな家庭では朝、支援員が出向いて手伝うケースもある。岡田さんは「通うよう指導するだけでなく、まずは親の思いを受け止め、ニーズに応えることが必要」と話す。
 NPO法人「児童虐待防止全国ネットワーク」の高祖常子(こうそ・ときこ)理事は、孤立した親にとって、保育所が保育士や他の親とつながりをつくる起点になると指摘。現状は就労要件などのハードルがあるが「誰もが当たり前に利用し、地域とつながれるようにするべきだ」と話している。

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