重度障害者の就労支援 働くハードル、依然高く 根強い全国一律実施の要望【大型サイド】

 働く重度障害者を介助する就労支援の事業がほとんどの市区町村で実施されていない実情が判明した。事業を使い費用の補助を受けて働けるようになった人がいる一方、未実施の地域では企業などの負担が重いままで、働くハードルは依然高い。全国一律で利用できるよう制度改正を求める声が上がる。

ヘルパー(左)にパソコンを操作してもらい仕事を進める小田政利さん=2022年11月、東京都北区
ヘルパー(左)にパソコンを操作してもらい仕事を進める小田政利さん=2022年11月、東京都北区

 ■役割
 在宅勤務で保険代理店の仕事をするさいたま市の上野美佐穂さん(49)。難病の脊髄性筋萎縮症のため全身の運動機能が低下し、常に介助が必要だ。ヘルパーから水分摂取や気温調節といった介助を受けながら、動く手先でパソコンを操作。週2回、顧客への保険案内や事務作業を担う。
 以前は雇用されて働くと、介助が受けられなかった。さいたま市は国に先駆けて2019年から、重度障害者が仕事中に介助を受けられる事業を実施。上野さんは20年10月に国が同様の「就労支援特別事業」を始めたことで働けるように。「同僚の悩みの相談に応じるといった役割も果たせるようになってきた」とやりがいを語る。
 ■心苦しさ
 だが、事業を使えない人は置き去りになっている。筋肉が次第に衰える難病、筋ジストロフィーを患う東京都の小田政利さん(54)は、障害者を支援するNPO法人で週5日勤務する。
 人工呼吸器を使い24時間の介助が必要だが、住所地の東京都北区は事業を実施していない。月約20万円の勤務中の介助費用は法人が負担しており、小田さんは心苦しさを感じている。「経済的な自立を目指すと、介助サービスが使えなくなるのはおかしい」と訴える。
 重い障害のある人が日常的に介助を受ける障害福祉サービス「重度訪問介護」は、就労中は利用できないのが国のルール。背景には、個人の経済活動への支援は雇用主が負担すべきだとの考え方がある。
 就労支援特別事業は現行ルールを維持したまま、別枠で介助費用を補助するという立て付けだ。実施は市区町村の任意で、広がりに欠ける。
 ■複雑
 自治体側にも戸惑いがある。金沢市は、市内に重度障害者はいるものの「就労している人がいるのか分からない」(担当者)とし、事業の実施予定はない。横浜市は導入を検討中だが「企業など調整先の関係者が多く、準備に時間がかかっている」と話す。今後、国の財政支援が減る可能性を懸念する自治体もある。
 当事者の間では、全国一律の重度訪問介護を就労中も使えるよう制度改正を求める声が根強い。支援団体からは「特別事業は手続きが複雑で、就労を後押しする効果は少ない」との指摘が出ている。

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