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日産ルノー 悲願の「脱支配」実現へ 四半世紀経て対等関係に

 日産自動車とフランス大手ルノーが出資比率で対等になることで基本合意した。経営危機をきっかけにルノーに株式の約43%を握られた日産は、約四半世紀の悲願だった「脱ルノー支配」を実現する。ルノーは重要市場だったロシアからの撤退で体力を奪われた上、電気自動車(EV)の開発強化も迫られ、EVで先行する日産の要求に応じた。

日産自動車とルノー、三菱自動車の関係
日産自動車とルノー、三菱自動車の関係

 均衡
 「重要なマイルストーン(節目)を迎えた」。日産自動車は30日に発表した声明で悲願成就が近いことをこう表現した。
 1999年から続いたルノー支配は、販売台数などで優位に立つ日産には「いびつな関係」(幹部)と皮肉られてきた。ただ、カルロス・ゴーン被告がカリスマ経営者として両社のトップに君臨してきたことで、バランスは保たれていた。
 2018年にゴーン被告が逮捕されると、均衡は一気に崩れた。ルノーの株主であるフランス政府の意向をくんでルノーが日産に経営統合を持ちかけたり、日産が水面下で出資比率の見直しを試みたりするぎくしゃくした関係が長く続いた。
 撤退
 両社の関係を変える一因になったのは、ロシアのウクライナ侵攻だ。
 ロシアはルノーにとって重要な市場だった。ゴーン被告が拡大戦略を突き進んでいた時代にロシアの自動車大手アフトバスの株式を取得し、傘下に収めた。ロシアはお膝元の欧州に次ぐ世界2番目の販売先となった。
 それを手放すよう迫ったのは、ウクライナのゼレンスキー大統領だった。ロシアで事業を展開するルノーなどを名指しで「ロシアの兵器のスポンサーであることをやめるべきだ」と痛烈に批判。ルノーは22年5月、ロシアからの全面撤退を表明した。18年に約388万台あったグループの世界販売台数は、22年に約205万台に落ち込んだ。
 戦略
 欧州の環境規制強化もルノーを追い込んだ。欧州連合(EU)はガソリン車などの新車販売を35年に事実上禁止する方向となり、ドイツのメルセデス・ベンツグループやスウェーデンのボルボ・カーはEV専業になる計画を掲げている。
 生き残りをかけたルノーは22年、EV事業を分社化する構想を発表し、日産に参画を求めた。
 日産はEV「リーフ」などでEV関連の技術を培ってきた。ある日産幹部は「ルノーは是が非でも日産の知的財産を手に入れたいはずだ」と分析。焦る必要のない日産はEV新会社への参画とルノーの出資比率引き下げを並行して交渉を継続。日産の内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)はルノーのルカ・デメオCEOとの会談を重ねた。
 日産にも懸念はある。ルノーはEV新会社に米半導体大手クアルコムの出資を受け入れるほか、米IT大手グーグルとも連携する方針だ。
 日産が強みを持つEVのモーター制御などの知的財産が流出すれば「競争力がどんどん落ちていきかねない」(日産幹部)。出資比率引き下げの見返りに知的財産をどこまで差し出すのか。日産が自社の強みを守り切れるのかが次の焦点となりそうだ。(東京、ロンドン共同=新井勇輝、佐藤拓也、宮毛篤史)

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