スポーツ界の暴力パワハラ問題 指導の現場、10年で陰湿化 暴力根絶へ保護者の理解も

 日本スポーツ協会が暴力パワハラ問題で設置した窓口への相談件数が、2022年度は過去最多の300件超となる見通しとなった。内訳で見ると、13年4月の「暴力行為根絶宣言」から約10年で殴る、蹴るといった暴力が減る一方、指導の現場では暴言が最多で増加傾向にあり、心に傷を負わせるような「陰湿化」の課題に直面する。被害者は小学生が4割と最も多く、指導者に依存しがちな保護者への理解を求める指摘も出ている。

「暴力行為根絶宣言」を採択する「スポーツ界における暴力行為根絶に向けた集い」=2013年4月、東京都新宿区の日本青年館
「暴力行為根絶宣言」を採択する「スポーツ界における暴力行為根絶に向けた集い」=2013年4月、東京都新宿区の日本青年館
監督による柔道女子日本代表選手らへの暴力問題で開かれたJOCの緊急会議=2013年1月、東京都渋谷区
監督による柔道女子日本代表選手らへの暴力問題で開かれたJOCの緊急会議=2013年1月、東京都渋谷区
岩手県立不来方高の自殺問題について記者会見し、謝罪する県教育委員会の幹部ら=2022年6月、岩手県庁
岩手県立不来方高の自殺問題について記者会見し、謝罪する県教育委員会の幹部ら=2022年6月、岩手県庁
「暴力行為根絶宣言」を採択する「スポーツ界における暴力行為根絶に向けた集い」=2013年4月、東京都新宿区の日本青年館
監督による柔道女子日本代表選手らへの暴力問題で開かれたJOCの緊急会議=2013年1月、東京都渋谷区
岩手県立不来方高の自殺問題について記者会見し、謝罪する県教育委員会の幹部ら=2022年6月、岩手県庁


暴言や罰走も
 「もうバレーするな」「そんなんだからいつまでも小学生だ、幼稚園児だ」「使えない」―。18年に自殺した岩手県立不来方高(矢巾町)の男子バレーボール部員は、県教育委員会から懲戒処分を受けた当時の顧問から暴言を浴び続けていた。
 日本スポ協への相談内訳で22年度は暴力が14%に対し、暴言がパワハラ(無視、差別、罰走など)と合わせて6割超に上った。禅問答のように問い詰め「おまえは頭が悪い」という例もあり、暴力等相談室の品治恵子係長は「証拠が残りにくい、証明しづらいものが増えている」と分析した。

暴力的指導4類型
 日本スポーツ法支援・研究センターの理事を務め、14年から窓口を統括する合田雄治郎弁護士は暴力等に及ぶ指導が(1)子どものために暴力が良いことだと確信する「確信犯型」(2)適切な指導が分からず即効性のある暴力に訴える「指導方法不明型」(3)感情をコントロールできない「感情爆発型」(4)暴力行為を楽しむ「暴力嗜好型」―の四つに分類できると説明する。
 その中で10年前を契機に「確信犯型」から「指導方法不明型」へシフトしていると分析。調査では「いけないと分かっているがやってしまった」という声も多く、部活動の地域移行が推進される中で「子どもを指導するのは相当なスキルが必要。教える側が研修等で常に勉強し続けることが重要だ」と警鐘を鳴らす。

小さな芽も
 日本スポ協などが23年度に実施する再発防止事業のメインターゲットは保護者と子どもだ。「問題が根深いのはたたく指導者を擁護する保護者がいること」と合田弁護士。全国大会出場などの実績に目を向けるあまり、指導者の判断に任せ、子どもを含めて暴力的指導に事実上まひしているケースがあるという。
 日本体育大の南部さおり教授は「ハラスメントへの意識は浸透してきたが、変われない指導者もやはりいる。子どもの場合、理屈で諭すより手っ取り早く怖がらせたり、嫌な思いをさせたりして、自分の思い通りにコントロールしやすい」と指摘。子どもが成長し、指導者となった際に負の連鎖を断ち切るためにも、品治係長は「小さな芽からつぶしていかないといけない」と強調した。

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