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東南アジアと日本の起業家 フィンテックで貧困脱出 新興国で運転手に融資

 日本のスタートアップが、ITと金融を合わせた「フィンテック」を使って新興国で信用力がなかった人々の貧困脱出を手助けしている。フィリピンではタクシー運転手の働きぶりをデータで示し、自分の車両を持てるよう融資を受けられる仕組みを作った。新型コロナウイルス禍の危機をしのぎ、利用者を増やしている。

フィリピンのマニラ首都圏で三輪タクシーで働きに出かけるデラバジャヤンさん=2022年9月(共同)
フィリピンのマニラ首都圏で三輪タクシーで働きに出かけるデラバジャヤンさん=2022年9月(共同)
フィリピンのマニラ首都圏で返済間近な三輪タクシーに乗るブンダさん=2022年9月(共同)
フィリピンのマニラ首都圏で返済間近な三輪タクシーに乗るブンダさん=2022年9月(共同)
フィリピンのマニラ首都圏で三輪タクシーで働きに出かけるデラバジャヤンさん=2022年9月(共同)
フィリピンのマニラ首都圏で返済間近な三輪タクシーに乗るブンダさん=2022年9月(共同)


高根の花
 「(インド製三輪自動車の)バジャージを買う金を借りに行くんだ」。フィリピンのマニラ旧市街近くで三輪タクシーの運転手デラバジャヤンさん(48)が語った。価格は20万ペソ(約48万円)。1日の売上高が1千ペソ程度の運転手にとって高根の花だ。車両レンタル代と燃料費を払えば、手元には残るのはわずか。この国では口座を持つ人は2割強に過ぎず銀行のハードルは高い。
 購入を可能にしたのがグローバル・モビリティ・サービス(GMS、東京)。専用機器を車両につなぐと、返済が滞った場合、安全な場所に駐車したのを感知してエンジンがかからなくなる。返済が焦げ付けば車両を回収し、整備して別の希望者に再販、不良債権化を避ける。担保なしの融資で20%に上る不良債権比率を1%程度まで落とし、金利も下げた。
 この機器には衛星利用測位システム(GPS)、加速度センサーを組み込む。運転手の働く時間や走行距離、急ブレーキの少なさなど仕事の丁寧さをデータで把握できる。働きぶりは金融機関の判断に役立つ。両者を仲介し、GMSが手数料を得る仕組みだ。

データが救う
 順調に業績を伸ばしたが、2020年初めにコロナの脅威が広がると暗転した。フィリピンでは食品の買い物以外の外出禁止など厳しい対策が取られた。
 運転手も外に出られない。不良債権は積み上がり、融資は止まった。金融機関はGMSに提携打ち切りを迫った。現地法人の中嶋一将最高経営責任者(30)は思いとどまってもらおうと「頭を下げる日々が続きました」と振り返る。
 データに救われた人もいた。運転手歴20年以上のブンダさん(50)はコロナ禍で返済が不可能に。ただ過去の働きがデータで確認でき、猶予を認められた。ブンダさんは「子どもを大学にやることができる」と話す。
 現地では規制が緩まり、22年初めから再び利用者が増加。GMSの中島徳至社長(56)は「多くの地域で需要がある。1億人が利用できるサービスに育てたい」と語った。(マニラ共同=角田隆一)

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