自衛隊員愛用の靴下が人気 被災地の光景胸に開発
「丈夫で穴が開かない」と自衛隊員に愛用されている靴下が、インターネット上の口コミを通じて一般消費者の間でも人気を呼んでいる。奈良県橿原市の靴下メーカー巽繊維工業所の巽亮滋社長(60)が、阪神大震災の光景を目にした際の思いから誕生した商品「ガッツマン」だ。

震災が起きた1995年1月17日の約1カ月後、支援物資を車に積んで駆けつけた神戸市で、巽さんは被災地のがれきを黙々と撤去する自衛隊員の姿を目にし「無力な自分との差に衝撃を受けた」と話す。
2年後、会社に1本の電話が入る。「穴が開かない頑丈なソックスを作ってほしい」。陸上自衛隊で働くという男性が要望したのは「100キロを歩く行軍訓練に耐えられる」品質だった。国支給の靴下では破れてしまうという。震災の記憶がよみがえり、巽さんは開発を快諾した。
試作を重ねた末、編む糸の量を増やし、独自のポリエステルの補強糸を全体に使うことで耐久性を高めた5本指のソックスを完成させた。各地の陸自駐屯地の展示即売会へ行脚し、改良を続けた。全国の駐屯地内の売店に置かれ、年間8万足を生産するようになった。
新型コロナウイルス流行が始まった2020年、経営危機が訪れる。売り上げの8割を占めていた大手ブランド向け商品の受注が途絶え、窮地に追い込まれた。
「賭けだった」が、一般向けにも展開していたガッツマンの増産に踏み切り、ネット販売を強化。丈夫さをたたえる元自衛隊員の声がネット上で拡散し、注文が急拡大した。建設作業員や登山者の需要に加え、ランニングやゴルフ用も好評で、売上高の9割超を占めるようになった。
近年はパリでも販売し、現地の競歩選手らも愛用する。巽さんは「震災では無念さを感じたが、靴下で少しでも役に立てれば」と話した。