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首相のG7議長外交 日欧、対中ロへ安保結束 影潜める「核なき世界」

 岸田文雄首相は、先進7カ国首脳会議(G7)の今年の議長国として訪れたG7メンバー国で安全保障協力を次々と打ち出した。ロシアと中国の連携を警戒し、5月の広島サミットを前にG7結束を強める。一方で、サミットで打ち出したい「核兵器なき世界」に向けた発信は影を潜めた。

欧州歴訪で合意した安全保障協力
欧州歴訪で合意した安全保障協力


助け合い
 「今や欧州とインド太平洋の安全保障は不可分だ」。岸田氏は現地時間の9、10日にそれぞれ会談したフランスのマクロン大統領、イタリアのメローニ首相との共同記者発表で強調した。台湾周辺で軍事活動を強める中国をにらみ、ロシアによるウクライナ侵攻と同様の事態が起きかねないとの危機感が背景にある。
 日本はこれまで安全保障面で同盟国の米国に大きく依存してきた。だが、中ロの台頭に押される形で米国の存在感が相対的に低下。昨年12月に改定した国家安全保障戦略で、G7など同志国との結び付きを深める方針を明確化した。英国との円滑化協定(RAA)や次期戦闘機の共同開発、フランスとの外務・防衛閣僚協議の開催はその象徴だ。
 岸田氏周辺は「何かあったときに助け合う関係となり、メリットは大きい」と手応えを語る。首脳会談では、昨年6月にドイツで開かれたG7サミットの首脳声明に沿って「台湾海峡の平和と安定の重要性」も確認。将来起こり得ると懸念される台湾有事への備えを固めた形となった。

理想と現実
 一方、被爆地・広島出身の岸田氏が外遊中、核廃絶に表だって言及した場面は見当たらない。マクロン氏やメローニ氏との共同記者発表では言及がなく、外務省が事後に発表する会談概要にも明示されなかった。
 8日のNHK番組では広島サミットについて「未来に向けて核兵器のない世界を目指す機運を広島から盛り上げる機会にできれば」と語っている。今回の歴訪は、サミットの際に広島市の原爆資料館訪問を各国首脳に打診する「格好の場」(政府関係者)との見方もあったが、同行筋は「サミットの行事の話はしていない」と否定した。
 代わりに岸田氏が繰り返したのは「核兵器による威嚇や使用を断固拒否する」とのフレーズ。ロシアのプーチン大統領が核兵器使用をちらつかせ、欧州は最前線となる。理想よりも前に、現実的脅威に対する毅然とした姿勢の明示を優先させたようだ。
 英国の後はカナダと米国を訪れる。米国のバイデン大統領との会談では抑止力強化が主題となり、核の力は欠かせない。外務省関係者は「まずは厳しい安全保障の現実に目を向けざるを得ない」と指摘した。(ロンドン、東京共同)

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