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年頭記者会見 「挑戦の一年」首相意欲 説明欠く岸田流、世論困惑【表層深層】

 岸田文雄首相は年頭記者会見で「新たに挑戦する一年」と意欲を表明した。昨年の成果としたのが12月に決めた防衛力強化や原発活用の一大政策転換。ただ、両政策とも国会論議がほとんどないまま決まり、世論は困惑しているのが実情だ。「説明する力」に欠けた岸田流は今後も続くのか。

年頭記者会見をする岸田首相(奥左)=4日午後、三重県伊勢市
年頭記者会見をする岸田首相(奥左)=4日午後、三重県伊勢市
説明不足が指摘される政策転換
説明不足が指摘される政策転換
年頭記者会見をする岸田首相(奥左)=4日午後、三重県伊勢市
説明不足が指摘される政策転換


「歴史的役割」
 「本年も覚悟を持って挑戦を続ける」。4日、首相は三重県伊勢市の伊勢神宮内で会見に臨み、新年の抱負を語った。「先送りできない課題に答えを出していくのが岸田政権の歴史的役割だ」と高揚感を漂わせた。
 例示したのが賃上げ推進だ。「この30年間、想定されたトリクルダウンは起きなかった」と名指ししたのは、大企業や富裕層が潤えば経済全体に行き渡るというアベノミクスの根幹だった。安倍政権でも論点になった。「この問題に終止符を打ち、賃金が毎年伸びる構造をつくる」と政策転換に自信を見せた。
 少子化対策も挙げた。「4月のこども家庭庁発足まで議論開始を待てない」。以前から唱えてきた子ども関連予算倍増の道筋を、6月の経済財政運営指針「骨太方針」策定までに示すと改めて期限を明確にした。
 会見で昨年を振り返り、挑戦した結果だと誇ったのが防衛とエネルギーの政策転換だった。

唐突感
 首相の思いとは裏腹に「民意とのずれ」(自民党中堅)は否めない。昨年12月17、18両日の共同通信世論調査で、2023年度から5年間約43兆円への防衛費増額に「反対」は53・6%、一部財源に充てる増税への不支持は64・9%に上った。
 防衛力強化の柱で、専守防衛を脅かしかねないと懸念されるのが反撃能力(敵基地攻撃能力)保有だ。首相は21年10月、就任直後の所信表明演説や衆院選の自民党政権公約でこの言葉を直接使わず、選挙後の12月の所信演説で初めて「敵基地攻撃能力」と触れた。
 この1年間、国会で取り上げられても答弁の多くは首相の決意表明や政府の原則説明にとどまった。昨年12月16日の安全保障3文書の閣議決定は「国民に唐突と受け止められた」(政権幹部)。
 首相は防衛力強化の内容・予算規模・財源を「三位一体」で決めると繰り返した。実際は昨年6月の骨太方針を巡る安倍晋三元首相との攻防で、国内総生産(GDP)比2%の数値を明記。43兆円の規模を決めたのは安保3文書決定の11日前だ。自民内にも「額が先に決まった印象」(若手)と違和感が漏れる。

身勝手
 12月22日に決めた大きな政策変更が次世代型原発への建て替え、運転期間60年超への延長だ。脱炭素化を看板に、GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針として策定した。東京電力福島第1原発事故後の原発依存度低減から方向転換する。
 夏の参院選後、8月のGX実行会議で首相が検討を指示した。10月に臨時国会が始まったが、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題や安倍氏国葬、閣僚の相次ぐ更迭が主要議題に。官邸筋が「野党の厳しい批判があると身構えていたが拍子抜けした」と口にしたほど、議論は少なかった。
 防衛力、原発に共通して言えるのは、形の上では首相が専門家や実務者の協議を経て結論を出した点。首相は議論を踏まえたと捉えているようだが、国会などオープンな場の議論が少ないため「国民には突然結論が降ってきた格好」(野党幹部)というわけだ。
 首相が言う「聞く力」はどこで発揮されたのか。立憲民主党の泉健太代表は4日の年頭会見で「首相の政権運営は身勝手。国会論戦なく重要政策を進め、恐ろしい」と対決姿勢を鮮明にした。

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