幻の横綱像、所在が判明 ベルリン五輪の芸術競技に出品

 東京都内の個人宅に保存されている大相撲横綱像が当時、正式競技だった1936年ベルリン五輪の芸術競技で入賞相当に選ばれた彫刻と同一作品だと推定されたことが29日までに分かった。研究者の論文で判明した。関係者は「戦前の五輪芸術競技に出品した日本の作品は所在不明が多い中で、価値のある調査だ」と評価している。

「横綱両構」像と同一作品だと推定された像=2021年3月、東京都豊島区
「横綱両構」像と同一作品だと推定された像=2021年3月、東京都豊島区
横綱昇進(1936年)の後、長谷川義起(右)のアトリエを訪問し記念撮影に納まる男女ノ川(東京都豊島区蔵)
横綱昇進(1936年)の後、長谷川義起(右)のアトリエを訪問し記念撮影に納まる男女ノ川(東京都豊島区蔵)
「横綱両構」像と同一作品だと推定された像=2021年3月、東京都豊島区
横綱昇進(1936年)の後、長谷川義起(右)のアトリエを訪問し記念撮影に納まる男女ノ川(東京都豊島区蔵)

 「横綱両構」というタイトルの像は、スポーツ選手をテーマに多くの作品がある彫刻家の長谷川義起(1891~1974年)が制作。戦前、戦中の巨漢横綱で知られた男女ノ川をモデルにした力感あふれる全身像だった。これまで限定的に像の存在は知られていたが、五輪出展作との確認が取れなかった。作者の孫の松本記代さんが制作工程や資料を調べて出展作との関係を結びつけた。松本さんが所属する東京都豊島区立郷土資料館の研究紀要「生活と文化」で今年発表した。
 現存する像(高さ60センチ、横54センチ、奥行き35センチ)は石こう製で、下半身や右腕がないなど破損が激しい。出展時の作品データが不明のため(1)この石こう像からブロンズ像を鋳造した形跡はあるのか(2)元々は全身像だったのか(3)1体だけ作られたのか―の疑問点を中心に、近現代彫刻の保存修復専門家である高橋裕二さんに調査を依頼した。
 その結果、鋳造が行われた形跡はなく、複製を作るための「型取り」の跡も見当たらないことが分かった。全身像を作る際の支柱痕が残っているのも確認された。「現状調査記録」の結論には、何らかの事故で大きく破損したが「『横綱両構』と名付けられた彫刻作品は、当該石こう像1点のみと考えることが妥当である」と記された。
 松本さんは「一つの結論は出せたかと思う。この像を後世まで伝えたいので、適切な管理保存が期待できる寄贈先を探している」と話した。

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