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海自特定秘密漏えい 「上下関係」保全の穴に 他国との情報交換に支障も【表層深層】

 特定秘密を漏えいしたとして、海上自衛隊の1等海佐が立件され、懲戒免職処分となった。政府は特定秘密保護法を定め保全態勢を強化してきたが、大物OBと情報部門中枢幹部の「上下関係」から機密の壁に穴があいた衝撃の強さは計り知れない。他国との情報交換に支障を来す可能性もあり、防衛省は再発防止策の検討に乗り出したが、過去にも流出を繰り返してきた自衛隊への信頼回復は喫緊の課題だ。

東京・市谷の防衛省=26日午後
東京・市谷の防衛省=26日午後
東京・市谷の防衛省=26日午後
東京・市谷の防衛省=26日午後
東京・市谷の防衛省=26日午後
東京・市谷の防衛省=26日午後
海自特定秘密漏えいのイメージ
海自特定秘密漏えいのイメージ
東京・市谷の防衛省=26日午後
東京・市谷の防衛省=26日午後
東京・市谷の防衛省=26日午後
海自特定秘密漏えいのイメージ


畏怖
 「作戦能力や精強性を揺るがすのみならず、関係国との信頼を損ない、国民の負託をも裏切る行為だ」。海自トップの酒井良海上幕僚長は26日、臨時の記者会見を開き、硬い表情で事件を批判しつつ、謝罪の言葉を重ねて頭を下げた。
 漏えい先である元海将は、海自の艦艇や航空機を一元的に指揮する自衛艦隊司令官や、防衛計画を担当する海幕防衛部長などを歴任。ある海自幹部は「リーダーシップ抜群で海自のど真ん中を歩み続けてきた、まさにエースだった」と評する。
 海幕長への就任が有力視されていたが、ナンバー2の自衛艦隊司令官でキャリアを終えた。当時の人事の内幕について、あるOBは「部下への強権的な振る舞いが目に余った」と打ち明けた。
 懲戒免職となった井上高志1等海佐(54)は、海自の活動に必要な情報の収集分析に当たる情報業務群のトップで、機密を扱うプロ中のプロのはずだった。元海将とは直接の上司部下だった時期があり、防衛省は井上1佐が元海将に「強い畏怖の念」を抱いていたことを漏えいの要因として挙げた。

重なる構図
 自衛隊の情報流出は相次いできた。2015年には、陸上自衛隊の部内向け教本が、在日ロシア大使館で勤務していた情報機関員に渡っていたことが発覚。自衛隊法違反容疑で、現役とOBの自衛官計6人が警視庁に書類送検される事態となった。
 この事件でも、東部方面総監という重職に就いた元陸将の有力OBが、元部下の現役陸将に提供を持ちかけていた。上司と部下の関係から情報が流出した構図は、今回の漏えいとも重なる。
 防衛省背広組は「防衛大学校に入り、若い頃から自衛隊という世間から閉じた組織の論理と評価で生きてきた幹部自衛官の人間関係の濃密さは、外部からは実感しにくいものがある」と話す。

危機感
 初の特定秘密漏えいという失態に防衛省は公表と同時に、副大臣を長とする再発防止検討委員会を立ち上げた。22年度内に結論を出す方針だ。対応を急ぐ背景には、特定秘密保護法は、米軍をはじめ他国軍との情報共有を進めていくために導入された経緯がある。
 07年、海自イージス艦の情報流出が発覚。イージスシステムを開発した米軍は自衛隊の情報管理の甘さに危機感を強めた。防衛省幹部は「保護法制定の要因の一つになった」と指摘する。
 自衛隊の先端装備は米国から導入するケースが多い。航空自衛隊の次期戦闘機は英国、イタリアと共同開発することに決まった。情報保全は協力の前提であり、不備は防衛力強化の足元を揺るがしかねない。酒井海幕長は会見で「二度と発生させない」と強調した。人間関係という「流出ルート」をどうふさぐか。信頼回復に向け、防衛省は難問を背負わされた。

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