監護者の性虐待どう防ぐ 癒えぬ心の傷、早期支援を 対応機関少なく

 幼少期に性被害に遭った心の傷は、時を経て癒えるものではない。「監護者」による性虐待は家庭内という閉鎖性もあり、被害を打ち明けづらい特徴がある。子どもたちの異変に気づき、早期の支援につなげることが必要だが、対応できる機関は「少ない」と識者は警告する。子どもたちが性暴力から身を守るすべを学べる教育の重要性も指摘する。

オンラインで取材に応じる東海地方の主婦=20日
オンラインで取材に応じる東海地方の主婦=20日
フェリアンでのカウンセリング、CAPプログラム
フェリアンでのカウンセリング、CAPプログラム
オンラインで取材に応じる東海地方の主婦=20日
フェリアンでのカウンセリング、CAPプログラム

 「父との関係が悪くなるのではないかという不安から周りに相談できなかった」。小学1年から高校1年まで父から胸や性器をなめられるなどの性虐待を受けていたという東海地方の主婦(32)は振り返る。
 大阪市北区と京都市中京区に拠点を構える心理カウンセリング機関「フェリアン」には10~60代の性被害者が訪れる。「子どもの頃の性被害を思い出してしまう」「あの行為は性虐待だったのかもしれない」といった相談が寄せられている。
 所長で臨床心理士の窪田容子さんによると、自分を守ってくれる安心できる存在のはずの監護者から傷つけられた場合、他者との距離の取り方や対人関係の構築が困難になることがある。フラッシュバックなどの心的外傷後ストレス障害(PTSD)や、長期間続く傾向にある「複雑性PTSD」に悩まされ、アルコールを過剰に摂取したり、自傷行為に及んだりする傾向も。ニュースやドラマの場面が引き金となり、記憶がよみがえるケースもある。
 カウンセリングでは(1)体調や環境を整えて症状を管理し、生活の安定を図る(2)トラウマと向き合って整理する(3)「新たな自分」や、社会との関わり方を模索する―ことをサポートする。「心身を踏みにじられてきた被害者の意思が尊重される体験によって『自分は大切な存在』と感じることにつながる」としている。
 大阪市阿倍野区のNPO法人「CAP(キャップ)センター・JAPAN」は、性暴力や虐待、痴漢などから身を守るための「CAP(Child Assault Prevention)プログラム」の普及に取り組んでいる。
 対象は主に3~15歳。「あなたは安心、自信、自由の三つの権利を持つ大切な存在」と伝え、その権利を奪われそうになった時は「No(嫌だと言う)」「Go(その場を離れる)」「Tell(誰かに相談する)」のうち、できることを実行するよう促している。事務局員の重松和枝さんは「何かが起きそうになった時の違和感を周囲の大人に伝えられる環境が必要」と語る。
 性犯罪に詳しい武蔵野大の小西聖子教授は「子どもが出しているシグナルに気づくのが大切」と訴える。家庭内での性虐待の被害者は夜遅くまで繁華街をさまようなど帰りたがらない行動を取る場合もあるという。
 専門機関を拡充するとともに、学校や地域の見守り組織、自治体の他、一人一人が「身近に性被害が起きているかもしれない」と問題意識を持って積極的に関われば早期の被害把握につながると話す。

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞