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カジノ審査長期化 くすぶる不満「大阪は冬の時代」 岸田政権は消極姿勢? 統一選で争点に

 カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の実施地域を巡り、早ければ年内と見込まれていた政府の最終判断が、来年に持ち越される見通しとなった。事業計画の審査に時間がかかっているというのが大きな理由だが、候補地の一つの大阪では、IRに積極的とは言えない岸田政権の姿勢が影響しているとの不満もくすぶる。来春の統一地方選でIRの是非を争点化しようとする動きもあり、政党間でつばぜり合いの様相を呈している。(共同通信取材班)

カジノで使われるタイプのルーレット=2018年
カジノで使われるタイプのルーレット=2018年
大阪府と大阪市の統合型リゾート施設のイメージ=MGMリゾーツ・インターナショナル、オリックス提供
大阪府と大阪市の統合型リゾート施設のイメージ=MGMリゾーツ・インターナショナル、オリックス提供
長崎県の統合型リゾート施設のイメージ=県提供
長崎県の統合型リゾート施設のイメージ=県提供
大阪市の人工島・夢洲(手前)=2月
大阪市の人工島・夢洲(手前)=2月
カジノで使われるタイプのルーレット=2018年
大阪府と大阪市の統合型リゾート施設のイメージ=MGMリゾーツ・インターナショナル、オリックス提供
長崎県の統合型リゾート施設のイメージ=県提供
大阪市の人工島・夢洲(手前)=2月


「年内はなかなか厳しい…」
 日本初のIR誘致に名乗りを上げているのは大阪府・大阪市と長崎県の2地域。両者とも今春、事業概要をまとめた区域整備計画を国土交通省に提出し、現在は有識者委員会が内容を審査中だ。委員会の評価結果を踏まえた上で、最終的に国交相が認定するかどうかを判断する。
 政府は判断を示す時期を明らかにしていないが、自治体側は整備計画の中で「2022年秋ごろ以降と推測」(大阪)、「10月1日と仮定」(長崎)と記載しており、年内には結論が出ると期待されていた。
 しかし、12月8日に国会内で開かれた立憲民主党の会合で、国交省の担当者が「年内というのは、なかなか厳しいものがある」と説明し、有識者らの審査にまだ時間がかかるとの見通しを示した。

人工島の地盤沈下リスクを審査
 審査に時間がかかっている理由の一つが、大阪府・市の計画でIR予定地としている人工島・夢洲の土壌問題だ。国交省は最近になって、有識者委員会のメンバーに土木工学や防災対策の専門家3人を追加した。埋め立て地ならではの地盤沈下や液状化によって、将来的にどのような変化が生じうるのかを慎重に判断しているもようだ。
 大阪市の松井一郎市長は12月、記者団の取材に「地盤について専門家に審査していただいているが、詳細に検証したいということで時間がかかっているようだ」と語った。その上で「速やかに判断してもらいたい」と要求した。
 大阪府・市のIR計画に出資を予定している企業の間では、反応が分かれた。ある企業の関係者は「政府も土壌問題の調査にそんなに時間はかけないと思う。大幅に遅れることはないのではないか」と静観する。一方で、別の企業の担当者は「ここまで遅れるのは想定外だ。関西の私鉄には、IRの開業に合わせて夢洲への延伸を検討する話もあったが、そうした経営判断にも影響があるのではないか」と懸念した。
 運営の中核を担う米カジノ大手MGMリゾーツ・インターナショナルやオリックスの担当者はいずれも「審査中なのでコメントできない」と話した。

安倍政権との蜜月、維新の看板政策が「国策」に
 有識者委員会での審査手続きとは別に、岸田政権のIRに対する消極姿勢や、大阪に本拠を置く日本維新の会との関係性が影響しているとの見方もある。
 そもそも、大阪で最初にIRの誘致を打ち出したのは、維新創設者の橋下徹元知事だった。2008年に知事に就任した橋下氏は韓国やシンガポールのカジノを視察して以降、誘致事業に力を入れ始めた。橋下氏の後を継いだ維新前代表の松井氏や、現在共同代表を務める吉村洋文知事らも旗を振って取り組んできたため、大阪では「IRは維新の看板政策」と受け止められている。
 こうした動きを後押ししたのが安倍晋三元首相だ。安倍氏自身も第2次政権期の2014年に海外のカジノを視察し、政府はその年の成長戦略に初めて「IRの整備検討」を盛り込んだ。その動きに呼応して、自民党もカジノの合法化を目指す超党派議連で議論を主導するようになった。
 2016年に成立、施行されたIR推進法は、国策としてIRに取り組むことを決定付けた。この法案は自民党などの議員立法で提出されたが、維新を除く野党の間で反対論が拡大。与党の公明党も慎重姿勢で採決の強行に難色を示す中、安倍氏の意を酌んだ自民党が押し切り、臨時国会の会期末に成立させた経緯がある。深夜、未明に及ぶ国会論戦の末、会期を延長してまで成立に持ち込んだ強引な手法は、IRの実現を強く求めてきた維新と安倍政権の蜜月ぶりを印象づけた。

維新府議「支持率低い岸田政権では決められない」
 一方、現在の岸田文雄首相には維新に肩入れする事情はなく、IRに対しても強い熱意はないとみられている。足元では、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関わりや「政治とカネ」の問題などで閣僚の辞任が相次ぎ、政権支持率は下落傾向にある。ギャンブル依存症や治安の悪化など、負のイメージが払拭できないIRをこのまま進めると、さらに支持率に響くとの見方も根強い。
 維新サイドから見れば安倍政権の時に比べ首相官邸とのパイプが細り、早期の認定を働きかけるのにも限界がある。大阪府の幹部は「大阪に対する政府の関心度は高くない。今は冬の時代だ」と嘆き、ある維新府議は「支持率が低い岸田政権は批判を恐れて決められないのではないか」と不満を漏らす。
 国交省の担当者が「年内は厳しい」との認識を示す10日前。維新の馬場伸幸代表は、衆院予算委員会で斉藤鉄夫国交相に対し、年内に判断を示すよう直談判した。事実上のゼロ回答だったが、前向きな答弁が返ってこないのを分かった上で、あえて政権との温度差を浮かび上がらせようとした可能性がある。

「最後は住民投票」維新と対決姿勢強める各党
 大阪で政治的な臆測が飛び交う背景には、府議会や大阪市議会も対象となる統一地方選が来春に迫っているという事情もある。維新とにらみ合う各党が、IR誘致の是非を統一選の争点として打ち出そうともくろんでいるからだ。
 前回の府議選や大阪市議選で、維新に大敗を喫した自民党大阪府連。統一地方選では失地回復を狙い、政策面で維新との違いを明確化することに躍起だ。IRについては、岸田政権発足後のトーンダウンを奇貨として、大阪府・市が提出した計画の不備を公然と指摘する声も上がり始めた。
 自民党大阪府連の会長を務める宗清皇一衆院議員は、12月上旬の共同通信の取材に対し「IR政策そのものには賛成だ」と前置きした上で、「大阪府・市の計画には課題が多いし、府民の間では賛否が分かれている。誘致するかどうかは住民投票で決めるべきであり、統一選では住民投票実施の是非を問いたい」と明言した。
 公明党はIR計画の認定権限を持つ国交相ポストを握るため、表立った反対をしづらいという事情がある。ただ、支持母体・創価学会の女性部にはカジノへの反感が根強く、公明府議の一人は「夢洲の土壌対策には金がかかる。当初は公費負担がこんなに増えるという話ではなかったので、住民への説明が難しい」と頭を悩ませる。
 立憲民主党や共産党、れいわ新選組などはIRに強く反対する立場だ。野党を支援する自治労の幹部は「もし統一選までに国交省が認定しなければ、IRの是非を争点化して維新を追及できる」と意気込む。
 気勢を上げる自民や野党各党に対し、統一選で実施される大阪市長選に立候補せず、政界引退の意向を示している松井氏の態度は冷ややかだ。記者団の取材に対し「共産党や立憲民主党は過去の選挙でもIRを争点にしてきたし、僕はその選挙で知事や市長として負託を得てきた」と指摘し「選挙活動は自由にやればいいけど、いつまで争点にするのかね」と突き放した。

いい茶0

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