テーマ : 読み応えあり

防衛増税 数合わせの議論、時間切れ 首相発言、混乱を増幅【表層深層】

 政府、与党は防衛費増額を確保する増税の実施時期決定を先送りした。今後5年間の防衛費を計43兆円に増やすための「数合わせ」で決着を急いだが国民不在の議論は時間切れとなり、自民党内の増税反対派を勢いづかせる結果となった。財源を巡る岸田文雄首相の発言が混乱を招いた面もあり、具体的な歳入計画は見通せないままだ。

防衛費増額を巡る岸田首相の発言など
防衛費増額を巡る岸田首相の発言など


恨み節
 「短期間で議論することはかなり難しいだろうなとは思っていた」。自民党の宮沢洋一税制調査会長は15日夕の税調会合後、記者団に「恨み節」をにじませた。首相から増税検討の指示を受けたのはわずか1週間前。会合では法人、所得、たばこの3税で財源を確保すると合意したものの肝心の実施時期を明示できず、16日に決定する与党税制改正大綱に書き込むことはできなかった。
 財源を「国債でというのは未来の世代に対する責任として取り得ない」との「正論」で押し切ろうとした首相だが、当初から防衛費を国内総生産(GDP)比で2%にするという「規模ありき」の姿勢が目立ち、防衛力強化の中身や必要性について国民の理解を欠いたまま増税議論に突入したことが最後まで響いた。
 党内では早くも、「(来年の税制改正作業まで)謙虚に丁寧に話し合う時間ができた」(片山さつき参院議員)など、巻き返しに向けた勢いが増しつつある。

禁じ手
 所得税を巡る首相の発言も混乱に拍車をかけた。「個人の所得税の負担が増加する措置は行わない」と述べる一方で、党税調では東日本大震災の復興財源となっている復興特別所得税の「転用」が浮上。法人税狙い撃ちを警戒する経済界の理解を促す狙いもあったが、復興軽視との批判を恐れる議員から「慎重に対応すべきだ」(菅家一郎元復興副大臣)などと猛反発を招いた。
 政府は5年間で43兆円とする防衛費のうち、自衛隊の施設整備の一部に建設国債を充てる方向だ。国債発行が野放図な軍事費膨張を招いた戦前の教訓もあり、建設国債を防衛費に認めてこなかった従来方針の転換となる「禁じ手」に踏み込むことになる。政府内からも、防衛財源に借金となる国債の発行を否定していた「首相の発言と政策方針の整合性がとれない」(幹部)との声が漏れる。

規律喪失
 増税時期を示さなかった背景には、安倍派を中心に、防衛費増額を借金で賄っても構わないとする議員との対立が先鋭化し「政局にしてはならない」(与党税調幹部)との判断を優先した側面もある。しかし「防衛力強化の内容と予算、財源を一体として結論を出す」との首相の説明が説得力を失ったことは否めない。
 さらに首相が倍増を掲げる子ども予算の議論も十分に行えないままで、与党内では「少子化も危機的な状況なのに、全て防衛に持っていかれてしまった」(自民の厚労族議員)との不満も噴出している。
 白鴎大の藤井亮二教授(財政学)は、復興特別所得税を巡る政権の対応が、国民感情への考慮を欠いたと指摘。来年度も増税を決められない可能性があるとの見方を示し「防衛財源を赤字国債で穴埋めする恐れが高まった」と財政規律の喪失に懸念を示した。

いい茶0

読み応えありの記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞