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中国ゼロコロナ政策破綻 14億人束縛、突然の解放 抑圧3年、医療崩壊の恐れ

 新型コロナウイルスの完全な封じ込めを目指した中国のゼロコロナ政策が破綻した。徹底した検査と隔離、封鎖で14億人を縛り付ける手法は限界に達し、世界で類のない厳格規制は突然、解かれた。壮大で実験的とも言える取り組みは失敗、約3年間抑圧された人々が動き出すことが予想され、感染者増加と医療崩壊の恐れがある。習近平指導部は正念場を迎えた。

せき止めなどが売り切れた薬局の商品棚=8日、北京(共同)
せき止めなどが売り切れた薬局の商品棚=8日、北京(共同)
閑散とする北京市内の繁華街=12日(共同)
閑散とする北京市内の繁華街=12日(共同)
マスクを着けた銅像の前を通る人=12日、北京(共同)
マスクを着けた銅像の前を通る人=12日、北京(共同)
中国当局発表の最近の新型コロナウイルス感染者数推移
中国当局発表の最近の新型コロナウイルス感染者数推移
せき止めなどが売り切れた薬局の商品棚=8日、北京(共同)
閑散とする北京市内の繁華街=12日(共同)
マスクを着けた銅像の前を通る人=12日、北京(共同)
中国当局発表の最近の新型コロナウイルス感染者数推移


まん延
 「もう何日も店に泊まり込んでいる。家から通勤したら絶対に感染するから」。北京中心部の飲食店主は口元からマスクを外さず、こう嘆いた。
 北京では政府が11月に対策を緩和した途端に高熱やせきなどの症状を訴える人が急増。会社幹部は「従業員約100人のうち出社しているのは半分以下」と漏らす。
 病院の発熱外来窓口は連日行列だ。最高気温が氷点下の中、せき込みながら市民が並んでいる。薬局では解熱剤やせき止めが棚からなくなった。
 当局発表の感染者数は11月下旬にピークとなり減少傾向にあるが、誰も信じない。政府はPCR検査体制を人的にも費用の面でも維持できず、受検しても陽性疑いの場合は結果を出さない不透明な運用が始まった。感染者の隔離に代わり、自宅療養を推奨している。
 39度の高熱を自宅で乗り切った30代女性は「とにかく市販薬を飲んでしのいだ」と振り返った。

前倒し
 共産党筋によると、10月の時点では、来年春のゼロコロナ解除を視野に、規制緩和を徐々に進める方針だった。冬に感染者が増えるため、一気に緩和すれば医療崩壊を招くと判断したためだ。
 だが2020年1月に湖北省武漢で最初の大規模なロックダウン(都市封鎖)に踏み切って以降、繰り返される封鎖や行動制限に国民の我慢は臨界点を超えた。
 河南省鄭州の巨大工場では10月、コロナ対策で敷地内に閉じ込められた人たちが脱走する騒ぎが起きた。11月下旬には、新疆ウイグル自治区ウルムチを皮切りに、武漢、上海、北京などに抗議デモが広がった。
 経済への打撃も深刻だ。7~9月期の国内総生産(GDP)成長率は前年同期比3・9%と振るわず「いくら鉛筆をなめても年間目標の5・5%は達成できないレベル」(党関係者)。習指導部は急きょ緩和の前倒しに踏み込んだ。

最大の難局
 いばらの道は今後も続く。外出規制がなくなったのに、北京の街はゴーストタウンのような静寂に包まれた。感染防止のため自宅にこもる住民が続出したからだ。重慶などでも繁華街がひっそりとしているという。
 習指導部は早くも「復工復産(業務と生産の再開)」を合言葉に、経済活動の活性化に動き始めた。国営メディアは12日、北京市が各企業に通常生産を続けるよう通知を出したと報じた。
 10月に習指導部の序列2位に抜てきされた李強氏は、上海が今春ロックダウンされたときの同市トップ。中国全体の経済に打撃を与えたが、党関係筋によると「復工復産は上海に学べ」とげきが飛んだほど党内の“評価”は高いのだという。
 経済回復以上の難題は、脆弱な医療体制の崩壊防止だ。来年1月下旬の春節(旧正月)の大型連休では、帰省や旅行による大移動を予想する見方もある。検査体制を縮小し、正確な感染実態はもはや把握できない。習指導部のコロナとの闘いは、最大の難局に直面した。(北京共同=早川真)

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