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<ピアニスト>あじさいホール(掛川市)

(2019/8/5 11:00)
自宅のホールでピアノに向かう今田篤さん。一人の空間で音の振動を確かめる
自宅のホールでピアノに向かう今田篤さん。一人の空間で音の振動を確かめる
楽譜
楽譜

 長い雨が庭木をぬらす掛川市の家並み。表札に「あじさいホール」と添えられた玄関の奥で、ベートーベンのピアノソナタが力強く響く。ドイツから一時帰国したピアニスト今田篤さん(28)が、音の振動を確かめるように腕を弾ませる。
 しっくいの白壁に、柔らかな木目のはり。照明の暖かな光が、指先に艶めく鍵盤を照らす。「自分だけの空間で好きなだけ弾く。庭に染まるアジサイというか、自然に溶け込める感じ」。2018年、世界的ピアニストを輩出してきた浜松国際ピアノコンクールで4位をつかんだ気鋭の奏者が、着飾らずに音楽と向き合う自宅のホールだ。
 演奏への思いきりの良さが信条。作曲家ありきの芸術は「自分を出し過ぎず、受け身にもならないように。真ん中というより、狙ったところの両側に振れてみる」。譜面の中にヒントを探し、解釈を地道に取り出す作業と心する。
 ピアノは3歳から。身近な子が習うことになった縁で、レッスンの毎日が始まった。「初めは退屈な曲が多くて、うまくできない箇所の繰り返し。口ではやめたいと言っていたけど、次の曲へ、より難しい曲へと進んでいくのがうれしかった」。小学4年で全国大会に出ると、同じ志の仲間の中に身を置きたい思いが強まった。
 東京芸術大での練習は徹夜を重ね、数々の栄誉を手にしながらも「不器用」を自認。努力のかけらも感じさせない才能の持ち主たちを目の当たりにし、「まねをしたら痛い目に遭った。人はオセロみたいに一手でパッと変わるわけじゃない」。自分のスタイルを知る大切さが身に染みた。
 留学先の独ライプチヒは、バッハやメンデルスゾーンゆかりの音楽の都。「サロンコンサートは日常。みんな開演よりずっと前に集まって、お茶を飲んで楽しんでいる」。茶どころの故郷にも、ぜひ定着してほしい文化だ。
 古典に触れながら、今を生きる芸術との出合いにも五感を向ける。「ベートーベンもラフマニノフも、全ては当時の最先端だった。近現代の音楽にも、理解を得ていく過程がある」。自らの表現で説得力を与えたい。思い描いた音色を世界へと問う。

 ■コレがなくっちゃ
 楽譜
 先生によるドイツ語の書き込みをレッスン後に再確認。「主観的になりがちな演奏を離れて、遠くから見つめてみることも必要」。常に持ち歩き、何度も読み込んだ跡が見られる。

 ■ドンナトコ コンナトコ
 実家を改装した3年前、演奏用に作ったミニホール。吹き抜けの部屋に2台のグランドピアノが並び、今田さんが帰郷した際の練習室にもなる。
 約25席を設ける形でのサロンコンサートを定期的に開催。バイオリンやチェロの奏者を招くなど共演の機会も多い。
 各種コンクールの賞状や盾と合わせ、恩師やコンテスタントらとの記念写真も。これまでに使った楽譜や教材、クラシックのCDが棚を埋める。

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