<手延べ麺職人>いなさの郷(浜松市北区)

 奥浜名湖の豊かな自然に恵まれた浜松市北区引佐町にある平屋造りの製麺所。8月上旬、つるんとしたのど越しに涼を求め、お盆直前まで注文が入る作業場は、白糸のカーテンで埋め尽くされた。幾重にも垂れ下がる美しい麺は「遠州手延べそうめん」。両手で2本の箸を操って麺を延ばし、麺同士の張り付きを防ぐためにも欠かせない「箸入れ」に精を出すのは加藤剛さん(41)。「くっついたまま乾燥すると麺が曲がって商品にならない」。父の通夫さん(70)は素早い箸さばきで、慎重に麺に命を吹き込んでいく。

ハタにつるした麺を2本の箸で素早く操る加藤剛さん(左)。父親で創業者の通夫さんと遠州手延べ麺の伝統を守る
ハタにつるした麺を2本の箸で素早く操る加藤剛さん(左)。父親で創業者の通夫さんと遠州手延べ麺の伝統を守る

 奈良時代、中国から伝わったとされるそうめんは日本最古の麺といわれる。毎朝4時、小麦粉に塩と水を加えてこね始め、よりを加えながら棒状に整える。もっちりと弾力のある食感を生む「寝かし」と熟成を繰り返し徐々に細く仕上げていく。昔は全て手作業だったが、時代の流れと生産量の増加で、こねや成形、麺の乾燥には機械も併用する。
 それでも「コシや食感を左右する大事な部分」という熟成の見極めや伸ばす前の油塗り、木製ざおに麺を掛けて延ばすハタ掛けは昔ながらの手作業。「最後は自分の手や指の感覚が頼り。気温や湿度、作る商品によって熟成のタイミングや時間が違い、まさに麺との駆け引き。そこが面白みでもある」。会社勤めを辞めて家業を継いだ剛さんの言葉には、度重なる失敗に悩み、試行錯誤から体得した自信が宿る。
 うどんやそば、ひやむぎも製造するが「そうめんで手延べをやるのは県内ではここだけ。伝統を守りつつ、若い感性で新しいことにも挑戦してくれればいい」。通夫さんは二代目への信頼を言葉ににじませた。
 来年は創業40周年を迎える。「昨日より今日、今日より明日、もっといい麺を作ることに執着する。うなぎパイや浜松餃子のように浜松といえば手延べ麺と思い出してもらえるようにしたい」。平成の次の時代を見据える剛さんは、決意を新たにした。

 ■コレがなくっちゃ
 分け箸
 麺さばきや伸ばしで必ず使う。長さ約60センチで自由自在に操れるようになれば一人前の証しだ。一方で剛さんは「本当に究極の道具だと思うのは人の手。多くの先人がブランドに育て上げた“手延べ”ですから」と語る。

 ■ドンナトコ コンナトコ
 名刹[めいさつ]方広寺や井伊直虎ゆかりの龍譚寺に近い山間地に新しい特産品を作ろうと地元有志らが約40年前に手延べ麺の会社を設立。2年後に加藤通夫さんが引き継いだ。
 家族で茶も栽培しているため新茶の時期のみ製麺は休業。それ以外は通年で稼働する。
 最近は地元JAの依頼で手掛けた新タマネギ味のそうめんや、直虎関連商品など浜松らしいコラボレーション麺も手掛け、話題を集めている。

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