静岡県立大発 まんが しずおかのDNA(27)日中の「ネット依存」認識差

 中国は吉林省にある延辺朝鮮族自治州をご存じだろうか。人口200万人のうち朝鮮民族が約半数を占める。本学は、州都の延吉にある延辺大学と交流協定を2018年に結んでいる。

漫画=かとうひな
漫画=かとうひな

 昨年、ゼミ生14人と延吉へ行き、同大で日本語を学ぶ学生と合同授業を行った。「ネット依存の社会と個人を考える」をテーマに、インターネットをめぐる日中両国が抱える社会の諸問題を日本語と朝鮮語で話し合った。
 興味深かったのは、過度のネット利用による身体的影響を指し、日本側が「依存症」と表現した時だ。中国側から「病気の扱いをするのは妥当なのか」という疑問が上がった。ネット利用なしには、日常生活が成り立たない中国社会になっているからだ。利便性を「病気」と結びつけることへの違和感なのだ。
 例えば、大学生は現金を使う機会がほとんどないという。学内食堂もスマートフォンによる電子決済が原則で、食券販売機はなくQRコードが店頭にある。アジア的な風景とも言える市場でもQRコードがあふれる。肉・魚・野菜を売る商人が集まり、その場でも食せる有名な朝市が延吉にはあるが、QRコードがすべての店に備わっている。日本でいえば、縁日の屋台すべてにこれがつってあるイメージで、本学学生も驚いていた。
 この風景を見て頭に浮かんだのは、韓国を代表する知識人李御寧[イオリョン]氏(86)の造語「デジログ」だ。QRコードがデジタルならば、朝市で売られるキムチの辛さや中華がゆの温かさはアナログの風景なのである。
 筆者は、初代文化相でもある李氏に、これまでの歩みに関する聞き書き(オーラルヒストリー)をソウルで行っている。李氏によれば、「コンピューターとインターネットが何百回逆立ちしてもできないことは、奥歯でかみしめる味覚だ」という。ネット依存が進んでも、食べ方はデジタル化できないのだ。イノベーション企業が多数ある一方で、「食材の王国」ともいわれる静岡県こそ、デジログ先端地にふさわしい。 (小針進/国際関係学部教授・韓国朝鮮社会論)
 静岡県立大の執筆陣が文理の枠を超え、漫画を使って静岡のDNA(文化・風土)を科学的に解き明かす(静岡新聞月曜朝刊「科学面」掲載)。

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